ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

日本の医療 -統制とバランス感覚

 

おはようございます。

 

転職を検討している医師・看護師に

キャリアプランを提供している

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

「日本の医療 -統制とバランス感覚」

中央公論社 池上直巳、J.C.キャンベル

を読みました。

 

日本の医療 医師キャリア

 

え~、私にしては珍しく

難しい本にチャレンジしました(苦笑)

 

ですが、この本は読んで本当に良かったです。

非常に勉強になりました。

 

自分自身が見ている医療って

実に狭い範囲なんだなと…

まあ当たり前ですけど、

視野をグッと広げる事ができました。

 

まずは目次ですが…

 

第1章 医療政策はどう決まるか

 1、競技の参加者

 2、競技場

 3、政策課題

 

第2章 医療機関と医療従事者

 1、過去の遺産の上にある医療制度

 2、6つの典型的な医療機関

 

第3章 医療保険制度

 1、「公平性」に対する2つの考え

 2、医療保険制度の現状

 3、医療保険制度の成立過程

 

第4章 医療費抑制の仕組み-マクロの視点から

 1、日本式医療費の抑制策

 2、医療費政策の形成過程

 

第5章 医療費抑制の仕組み-ミクロの視点から

 1、診療報酬体系の概要

 2、診療報酬の改定

 3、点数による政策誘導

 4、レセプトの審査、点検

 

第6章 医療の質

 1、5つの問題分野

 2、日本の優れた分野

 3、高齢者ケアの問題

 

第7章 転換期の医療費政策

 1、なぜ医療費の抑制が可能であったか

 2、制度の維持を可能にしている要因

 3、問題点とその対応

 

以上のようになっております。

 

批判をするって簡単ですよね。

大した事を知らなくても

それなりに批判をする事は誰にでもできます。

 

でも肯定をするというのは実に難しいです。

 

批判に対して事実や歴史を元に反論し、

理解をさせる。

 

その為には相当の知識が必要になり、

かなり勉強をしなければなりません。

 

この本を読んで安易に医療制度などを

批判する事はいけないな…

そんな事を考えました。

 

それくらいに冷静かつ客観的に

書かれている本です。

 

私がどうのこうの言うより、

少し長いですが「はじめに」より

下記を抜粋しますのでお目通し下さい。

 

<国民の医療を見る目が厳しくなっている。

 3時間待っての3分診療、薬づけ、検査づけ

 医療と言われて久しいが、

 昨今はさらにインフォームド・コンセントの不足や

 医療の質に対する不満も出ている。

 

 ところが、諸外国から眺めると、

 日本の医療は非常に優れているのである。

 

 日本の○歳平均余命や乳児死亡率などの

 保健指標は世界の最高水準にある。

 

 こうした成果は国民の間で所得格差が少ないことや、

 教育水準が全体的に高いことに負う点が大きいにせよ、

 医療自体の果たしてきた役割も無視できない。

 

 また、国民全員が医療保険に加入しており、

 保険証1枚があれば費用のことをあまり気にしなくても、

 どこの医療機関でも受診できる。

 

 一方、医師は基本的に自由に診療することができ、

 出来高払い制度に基づいて診療した内容に応じて

 収入が増えるようになっている。

 

 そして何よりも、

 日本で高騰していると信じられている医療費は、

 むしろ世界的には低い水準にあることで

 逆に注目されている。>

 

いかがでしょうか?

非常にスクエアな視点で簡潔にわかりやすく

まとめて書かれていると思います。

 

また、「あとがき」では、

 

<日本の医療制度を貫いている考え方は

 「バランス」であるという結論に至った。

 

 医療提供者の間、保険者の間、および

 医療提供者と保険者の間に

 それぞれバランスを保つことが最優先されており、

 こうした原則は現状維持的ではあるが、

 経済学の市場原理を医療にそのまま当てはめるよりは、

 医療の特異な構造に適しているように思われた。

 (中略)

 稿を終えるに至って、

 医療がいかに

 日本の社会の縮図であるかを改めて実感した。

 

 バランスは日本古来の「和」の精神に基づいた原理であり、

 対立点を表立てないで

 当事者だけの話し合いで解決しようとする傾向は

 日本の社会に普遍的に見られる。

 

 また、情報開示の遅れ、専門知識の軽視、

 将来の拡大を前提とした

 終身雇用型の大学医局制度など、

 そのどれをとっても正に社会全体の縮図であるといえよう。

 

 現在、こうした日本の社会体質は批判の対象となっており、

 規制緩和、情報の公開、

 会社人間からの脱皮などが叫ばれている。

 

 筆者も、確かにこのような政策転換が必要であると考えているが、

 医療は他の分野と大きく異なる性質を持っていることに

 十分留意する必要がある。

 

 それは国民全員が医療を的には平等に受ける権利があり、

 また患者には医療サービスの質が判断しにくい点である。

 

 このような制約があるために

 市場原理を単純に適用することはきわめて困難であり、

 したがって、医療分野においては

 理論よりも実践的な経験則が、

 また上からの抜本改革よりも

 当事者による地道な改善の積み重ねのほうが

 それぞれ効果的であるように思われる。

 

 確かにアメリカでは

 政府と企業が市場原理に従って

 規制緩和やリストラを強力に推進した結果、

 経済の活性化に成功したが、

 医療政策は失敗に終わっている。

 

 こうした状況は日本と正に対照的であり、

 換言すると、医療については

 たとえ場当たり的な印象を与えても

 「バランス」を重視した

 日本の政策決定プロセスのほうが優れていたといえよう。

 

 それゆえ、日本の医療制度にも

 早急に改善しなければならない

 多くの問題点が存在することも事実だが、

 制度の骨格部分については、

 アメリカに対して教示する立場にあり、

 こうした問題意識に立って本書の執筆を行った。>

 

え~、長文ですみません。

 

「はじめに」と「あとがき」でも

これだけ充実した内容です。

中身は推して知るべしですね。

 

上記が面白いと感じたり、

興味が持てたり、

非常にバランスの取れた文章だと

お感じになられた方には、

この本はとても勉強になるのではないかと思います。

 

お奨め度 ★★★★☆ の良書です。

 

それでは、また…。

 

 

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