ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

ぼくが医者をやめた理由

 

おはようございます。

 

医師、看護師の人生の転機でお役に立つ

転職・開業コンサルタント

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

「ぼくが医者をやめた理由」

永井明 平凡社 を読みました。

 

医師を止めるという選択

 

過去何冊か

永井明さんの著書を読んでいる私としては、

この本は機会があったら

是非読みたいと思っていました。

 

私のような素人にも

大変わかりやすく書かれていて、

楽しみながら読み進めていったのですが、

段々と微妙な気持ちになっていきました。

 

著者が医師をやめたのは、

それ自体はご自身の判断ですから

何ら否定をするつもりもありませんし、

著者なりの理由があったのだと思います。

 

ただ、これだけ医師が不足している時代ですから、

できる事なら辞めて欲しくはないというのが

国民感情ではないかとも思います。

 

亡くなっていく患者さんに対して

どうする事もできない無力感や、

ご自身が医師としてやっていけないと感じる

無能感のようなものがあったのかな…と

読み進めていったのですが、

どうやらそんな浅いものではなさそうです。

 

医者をやめる…。

 

私のようなビジネスマンに例えると

どうなるのでしょうか?

 

会社を辞めるというレベルではありませんし、

現在の職種を辞めるというものでもありません。

 

ビジネスマンにとっての転職は職種を変える、

業種を変えるという事も結構ありますから、

医者を辞めるという事は

そんなものとも思えません。

 

それこそビジネスマンを辞める…という事と

同義なのかなと考えました。

 

そう考えると一大決心な訳ですね。

 

私が出会ってきた医師は

人間力が高い方が多いような気がしています。

 

それは、医療現場とは

人間の良き面も悪き面も

明らかになる場だからではないかと考えています。

 

病気やケガをしている時の心理状況は

普段とは違うでしょうし

重症で死の可能性が高い時などは

本人、家族ともに通常では

あり得ないような行動を取る事だってあるでしょう。

 

そんな現場で働く医療者は

自然と人間力が高まるのではないかと考えている訳ですが、

逆にそんな生々しい現場に嫌気を持つ人もいるでしょうし、

耐え難い人もいるのでしょう。

 

だから医者をやめる…なんて

ちょっとした理由だったら寂しいなと思いますし、

この本はそういう部分もなきにしもあらずという感じで

書かれていましたので、

微妙な気分になったのですが、

どうやらもっともっと深い所に理由はありそうです。

 

そこは著者自身も

明らかになっていないようではありましたが、

かなり考えさせられる部分もありました。

 

例えば、

<医者にとって、肺がん、それもある程度以上に進行した

 肺がんの診断をつけるということは、

「これから先、あなたには何もできませんよ」と

 言われるようなものだ。

 

 平ったく言えば、

 医者は用なしということだ。

 いくら威張ってみたところで、

 効くクスリあっての、

 切れるメスあっての医者である。

 その両方が使えないとなると、

 もうお手上げである。>

 

という文章などは、

人はいつか死ぬという必然に対しての

医師としての無力感を表していて、

ニヒリズムというか、

無情を感じました。

 

また、

<「日本の名医百人」という本が出版されたりする。

 何を基準に名医などと判断したのだろう。

 大学の教授だから、

 大病院の院長だから、

 おそらくそんなところであろう。

 しかし、そんなことは信用しないほうがいい。

 彼らの多くが、

 ある分野の専門家であることは間違いない。

 けれども、そのことと、

 名医(ぼくはこの言葉を、良い臨床医として使う)とは

 必ずしも一致しない。

 

 ではどんな医者が名医なのか?

 普遍的な名医の基準などありはしないというのが、

 ぼくの臨床経験を通しての実感だ。

 だが、心配しないでほしい。

 万人にとっての名医はいなくても、

 あなたにとっての名医はきっと存在する。>

 

という文章からは、

患者側が抱える問題、

情報の少なさや

医療の専門性が高く理解できない為に起こる

とにかく頼るものが欲しいという現状を

表しているように感じました。

 

私のように医師と接する人間にとっては

どう受け止めるべきか非常に難しい本でしたが、

医療者の方は共感できる所も多いでしょうし、

同じような問題で悩む方にとっては

参考になる本ではないかとも思います。

 

また、一般の方は医療者が何を感じ、

何を考えているのかが垣間見えて

面白く感じるかもしれません。

 

医師の考えている事、

感じている事に触れる事のできる

面白い本です。

 

特に私個人としては

医師を理解する為に参考になりました。

今後の仕事に活かします。

 

お薦め度 ★★★★☆ と致します。

 

それでは、また…。

 

 

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