おはようございます。
医師のキャリアプランを研究し続ける
ジーネット株式会社の小野勝広です。
別に詳しく知っているわけではないのですが、
学ぶべきところが多そうなお二方です。
それぞれ数冊の著書を読んだ事はありますけど
おっしゃっている事が難しいですし、
完璧に理解できているなんて言えません。
ただなぜか長期的に学ぶべき人であると
私の脳裏にインプットされているのです。
本日のブログのタイトルは、
【 文学と非文学の倫理 】
といたしました。
本書をピックアップした理由
『 文学と非文学の倫理 』
吉本 隆明 江藤 淳 中央公論新社 を読みました。
実は本書の存在を知ったのは、
何かの本を読んでいた時に
紹介されていたのですね。
お!と思ってスマホのメモアプリに入力し、
その大元となる本が何なのかは忘れました(笑)。
私のメモアプリには
見つけたら買おうと思っている本が
何冊も書かれているのです。
本書は少し前に購入しておき、
早く読みたいと思っていました。
別に私は文学に精通している訳ではありませんが、
著者、タイトル、そして内容に期待しながら
興味津々で読み始めたのでした。
目次
・文学と思想
・文学と思想の原点
・勝海舟をめぐって
・現代文学の倫理
・文学と非文学の倫理
感想
いや~、この本は面白い。
吉本さんと江藤さんの掛け合いが
まるで日本刀で戦うような
高度な緊張感があり、
知性と教養のぶつかり合いのようで
非常に刺激的でした。
また取り扱うテーマも広範にわたり、
文学のみならず、政治、思想、文化、歴史など
実に広く、そして深く掘り下げてもいて
両名の思考の深さに感嘆するとともに、
視野の広さ、状況判断の鋭さなど
とてつもなく勉強になりました。
途中、ん?この2人は仲悪いのか?と
思えるところもありましたけど、
ケンカするほど仲がいいではありませんが、
対立しながらも問題意識が似ていて、
結論もわりと似たところに落ち着いたり、
また共感できない場面でも
根底にある知識や知性を持つ親和性のようなものがあり、
そこには信頼関係とお互いのリスペクトがある為に、
上手く落とし所を見つけていく感じが
とても好感が持てましたね。
それでは恒例の私がグッときたところを
ご紹介してまいります。
僕が事実を無視できないのは、
事実そのものが大切だからではなくて、
事実のかなたにいる他人が大切だからですよ。
(P.23 江藤)
いま言った幻想的な共同性にぶつかるような場合にはね、
やはり自己自身にぶつかるということになると思うのです。
自己自身にいつでもぶつかっている。
自己自身にぶっつかっているということを
もっとつきつめると、
自己の生自体にぶっつかっている。
これを否定するかどうか、どっちかだ。
つまりなにがためにおれは生きているのかという、
最後のそれはつぶやきになって、
外には出てこないが、
そういうことに結局はなると思うのですね。
(P.24~25 吉本)
反秩序というか、
あるいは今はやりの言葉では反体制ですが、
そういうものをよくよくもっと
微細にわけてもらいたい。
(P.30 吉本)
僕は必ずしも究極の終点が、
個人の真情あるいは虚偽だとも思わないのですよ。
それは、われわれの日常生活は個人が単位だから、
当然倫理が問題になるわけですね。
しかし僕もやはり、
個人のもうひとつ奥にある
生の根源というものに触れたい気がする。
(P.66)
僕は人間の存在というのはなにかというと、
よけいなことを
だんだん考えだしていくということだと思うのです。
(中略)
自己もまた他者になってしまうという
世界を作ってしまう。
そこでは、人間というのは、
平たく言えば、
ルールのようなものを作ってしまう。
ルールのようなものを作ってしまうと、
ルールというのは少なくとも当初は、
存在している複数の人間のだれにでも共通性のある、
そうしてだれにでも
まあまあ許せるというようなものがルールだと思うが、
それがだんだん高度になっていきましてね、
高度になっていくとルール自体が、
はじめは共同的なルールとしてあったものが、
逆に人間の存在を脅かしてしまう。
そのことはけっして倫理の問題ではない。
人間の存在のしかた自体が
そうなってしまう方法というものを、
もともと持っているのだという考え方があるのですね。
人間の基本的な存在のしかたというものはそういうもので、
もともとよけいなことは考えないで、
あなたのおっしゃるように、
じゅうぶんの余裕のある財力を持ち、
そうしてまた時間を持ち、
生活を持つという、
そういうことが、
いずれにせよ理想というものだろう。
(P.71 吉本)
人が生きていくということは、
なんと数多くの死に立ち会うことだろうか、
と切実に思いました。
それに尽きると思った。
死ぬ人間を一人ずつ見送って行く。
実際に見送ることもあるし、
比喩的に見送ることもある。
だが、いずれにしても、
大事な人がボコッボコッと死んで行く。
むろんそのうちに自分も死ぬわけですね。
これが人生だという気持が非常にしたですね。
それじゃあ歴史は何だろう、と思った。
(P.105~106 江藤)
歴史というのは崩れていくことですね。
(中略)
歴史家というのはそれを、
崩れるというふうには決して書きはしない。
必ず何かができていくというふうに書くんですね。
(P.106 江藤)
なにか禁忌を設けておかなければ、
人間の集団は存続しないのではありませんか。
(P.127 江藤)
タブーは、
パワーの所在にしたがって作られる。
パワーはなぜできるかといえば、
他のパワーがチャレンジしてくるからできる。
このチャレンジと、
チャレンジに対する応戦という関係が、
人間が集団を形成しながら生きてきたという、
旧石器時代から今日に至る歴史の中で
いつまで経っても変わらないのです。
(P.133 江藤)
日本二千年の歴史の中で
かつてなかったことであり、
とりもなおさず二千年間磨き上げられてきた
美学が通用しない状況が発生しているのだ、
ということを
われわれはもっと痛切に自覚すべきなのです。
(P.214 江藤)
昔はよくもない。
しかしいまもよくもない。
じゃ何がいいかといわれれば、
別にいいこともない。
じゃ、お前はなぜ生きているか。
死ぬわけにもいかないから生きている。
ということぐらいのことしかないんです。
(P.261 江藤)
それは人間の生涯でいいわけですが、
人間の生涯というのはどこを分岐点、
境界とするかわかりませんが、
ある時期から、
あるいはある年齢から後は、
結局どういったらいいでしょうね、
後ろを見ながら
子どもに返っていくという感じじゃないかなという
実感があるんですよ。
(P.269~270 吉本)
たとえば二十年前に見えなかったことが
ずいぶん見えるようになりましたね。
十五年前に見えなかったことも見えるようになった。
最近は二、三年前に見えなかったことが
また見えるようになったというような、
それこそさっき吉本さんがおっしゃったような、
激流を気がつかないうちにまたぎ越えたためかもしれない。
あれは帰るすべもないような
激しい流れだったなあという感慨がありますね。
(P.285 江藤)
それは日本人が自己表現の
十全な手段をもっているにもかかわらず、
あえて架空の回り道をとらせようとしたという点です。
回り道をとっているうちに
自己表現の手段がそれだけ減殺されるような
迷路を作ったという意味では、
大変な影響力があった。
大変な影響力があったけれども、
これはまずいのではないか、
マイナスではないかという感じがするんです。
(P.290~291 江藤)
自分がこれから何か言葉で表現したり、
何かをやっていくということが
どれだけの間続くのかわかりませんが、
どこらへんで自分を許容して、
どこらへんで許容してはいけないのかということ、
その境目みたいなものを
いつも見てなくちゃならないみたいなことが、
きついなといえばきついなという感じがしますし、
なんとなくそこいらへんでもしやれるならば、
もうしばらくはできるかもしれないなという
感想を持っています。
(P.299 吉本)
少し長くなりましたが、
問題提起に対する鋭い思考が心地よく、
私は非常に感銘を受けながら
読み終える事ができました。
評価
おススメ度は ★★★★☆ といたします。
個人的には満点でも良かったのですが
やはり好き嫌いはあるだろうなと思ったこと、
また時代背景や吉本、江藤両名に対する
多少なりとも知識がないと
ヒシヒシ伝わる感は持てないかもしれないと思い
四つ星といたしました。
私もそうだったのですが、
若い頃って古典を読めとよく言われるじゃないですか?
でも若い時分に古典なんて
読む気にもなれませんし、
実際にあまり読みませんでした。
遅まきながら最近それがわかるんです。
古典、まあどこまでの何を持って古典とするかは
エクスキューズとしてありますけど、
ひと世代前、ふた世代前、
それ以上前のものを古典とするならば、
本書なども古典の範疇に入ると思うのですね。
今では重鎮のようなご両名ですけど、
吉本、江藤両氏から見れば
ポッと出の若造みたいな位置づけで。
軽くあしらわれてました(笑)。
これも古典の効用かもしれません。
私は村上龍氏が好きで、
リスペクトしてますから
あらあらこんなに軽く扱われちゃうの?と
少し残念ではありましたが、
まあこのお2人なら許さざるを得ません。
私の知る限りでは、
我が国の近代における二大批評家と言っても
過言ではない方々ですので、
学ぶところは大きかったですね。
実に良い勉強になりました。
それでは、また…。
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