おはようございます。
毎日の読書が欠かせない
医療コンサルタントとして学び続ける
ジーネット株式会社の小野勝広です。
私のオフィシャルブログは
こちらになります。
はてなブログは書評ブログとして
趣味の範囲で更新しています。
いつか仕事を引退したら
オフィシャルブログは後進に任せ、
自分はこちらの書評ブログを
趣味で続けていくのだろうな…と想像しております。
ただ自分のミッションとして
医療を多くの人に理解して頂くために
医療系の書籍も時々ご紹介してまいります。
今回読んだ本は、
【 医療大転換ー日本のプライマリ・ケア革命 】です。
本書をピックアップした理由
『 医療大転換ー日本のプライマリ・ケア革命 』
葛西 龍樹 ちくま新書 を読みました。
医師を想像した時に、
多くの方はどんな医師を想像するでしょうか?
一般の方は
身近なクリニックの院長ではないでしょうか?
自分自身が風邪を引いた時、
両親が通院している診療所、
祖父、祖母を診察しに来てくれる訪問診療医、
子供を度々連れて行くクリニックで働く
医師を思い浮かべる方は多いのでしょう。
また大学病院や総合病院で働く勤務医、
近くの病院で働く医師、
テレビに出演する医師、
私たちの社会では
多くの医師が様々な場所で活躍しているのですね。
その割には医師の実態は
一般の方には理解されていませんし、
医師同士であっても
専門とする診療科目が違えば、
働く施設が違えば、
なかなか詳細まではわかっていないかもしれません。
私自身、医療業界で仕事をするようになり、
早くも10年という月日が経ち、
必死に勉強をしてきましたから
それなりの知識は身に付けているつもりです。
しかし医療制度は変わりますし、
医療技術は日進月歩に進化しますし、
医療従事者の抱える事情も
時代の変化とともに移り変わっていきます。
自分の中でテーマを持って、
継続的に勉強をしなければ…と
強く思っています。
今回は「家庭医」について学ぼうと思い、
本書を手に取ったのでした。
目次
はじめに
第1章 立ち遅れた日本の医療
1 日本の医療のどこが問題か
2 プライマリ・ケアで何が変わるか
第2章 プライマリ・ケアとは何か
1 「あなた」を専門にする医師
2 プライマリ・ケアを整備するメリット
第3章 プライマリ・ケア先進国の実践例
1 ヨーロッパ
2 ヨーロッパ以外
第4章 福島での災害医療
1 震災に対応できなかった従来の医療
2 家庭医療による震災復興
第5章 患者中心の医療を
1 「総合診療専門医」の誕生
2 今後の課題
おわりに
感想
いい本だなあ。
勉強になるなあ。
良書と言っていいだろうなあ。
そんな事を思いながら
じっくりと読ませて頂きました。
我が国の家庭医療は
家庭医療先進国と言われる諸外国と比較すれば
だいぶ遅れを取っていると言われます。
家庭医。
かかりつけ医。
総合医。
総合診療医。
プライマリ・ケア医。
これだけの名称があり、
定義すら明確になっていない現状。
また医師も専門医療を目指す事が
今までは当然とされていて、
家庭医を一段下に見る風潮すらあるんですね。
実際の医療現場では
金属疲労を起こしていると言えるような状況で、
医療改革は待ったなしです。
ましてや我が国の財政はひっ迫しており、
増え続ける医療費は何としてでも下げねばならない。
本書を読むと
これらの経緯がよくわかり、
また家庭医療こそが
その解決策のひとつである事も理解できます。
しかも我々患者側にとってのメリットは大きく、
医療費の抑制にも繋がるとあっては、
私たち自身も、そして政治家や自治体も
本格的に家庭医療を推進することを
考えていかねばならないのでしょう。
私が本書を読んで
もっとも感銘を受けたのは…
米国家庭医学界では、
家庭医は何を専門にしているかという問いの答えを
「家庭医は、あなたを専門にしている医師です」としたそうです。
そして米国のリチャード・ロバーツ教授は、
「最初に出会い、最後まで関わる医師」と述べたのだそうです。
もちろん先進医療や最新医療も大切ですし、
さらによい医療技術や医療機器、医薬品を研究することも
現代社会を生きる私たちの未来への責任であるとも考えます。
しかしごく普通の一般人は
この家庭医の定義を知れば、
素直に有難い存在であり
かかりつけ医とはまさにこういう存在なのだという事が
理解できるのではないでしょうか?
正直私はストンと腑に落ちました。
我が国でも1985年に旧厚生省が
「家庭医に関する懇談会」を組織し、
有識者を集めて検討をしたそうです。
その時には「家庭医機能」を
下記の10項目で発表したのですね。
1、初診患者に十分対応できること
① 疾病の初期段階に的確な対応ができること
② 日常的にみられる疾患や
外傷の治療を行う能力を身につけていること
③ 必要に応じて適切な医療機関に紹介すること
2 健康相談および指導を十分に行うこと
3 医療の継続性を重視すること
4 総合的・包括的医療を重視するとともに、
医療福祉関係者のチームの総合調整にあたること
5 これらの機能を果たすうえでの
適切な技術の水準を維持していること
6 患者を含めた地域住民との信頼関係を重視すること
7 家庭など生活背景をを把握し、患者に全人的に対応すること
8 診療についての説明を十分にすること
9 必要な時いつでも連絡がとれること
10 医療の地域性を重視すること
私はこれを読んで
率直にいいじゃん!と思いました。
1985年の段階ですからね。
もしこの時点で家庭医療を推進していれば
2020年現在の医療の形は
現状とは全く違っていたのではないかと思います。
しかし何とこれに反対したのは
日本医師会なんだとか…。
う~ん、何でだろう?
家庭医の機能は自分たちがすでに果たしていると
図々しくも言っていたそうです。
しかも英国のような人頭払い制度になると
日本の出来高払いのように
際限なく収入を増やすことができなくなるというのも
反対した一因のようです。
これは当時の反対した幹部は
切腹ものではないでしょうか?
所詮、医師会なんて開業医を守る為の団体だ…と
揶揄される事もありますが、
こういうところにその要因はあるのですね。
自分たちの儲けのために、
国家の方針を見誤らせ、
国民が適切な医療を受けることをできなくさせた。
そう言っても過言ではないでしょう。
国民や国家の利益よりも
自分たちの利益を優先させた
日本医師会の罪は重いですね。
まあ実際に当時何があったのかは
ほとんどわかっていないようですから
医師会の欠点を執拗以上に突くつもりはありませんし、
国民や国家のために良いこともしているのですから、
医師会なんて要らね~なんて言うつもりもありませんが、
やはり反省すべき点は反省しておかないと
不明を続けることになりかねないと思います。
ただこのことが我が国の家庭医療を
大幅に遅らせることになったのは事実でありますし、
もしこの時にもう少しやりようがあったなら
今、違う形になっていたであろうことを思うと
残念で仕方ありません。
2011年「専門医の在り方に関する検討会」にて
総合診療専門医が新たに登場しましたが、
これもどうなんでしょう…。
一般人から見ると
非常にわかりにくい名称であり、
おそらく浸透しないであろうことは明らかです。
むしろプライマリ専門医とか、
家庭医療専門医で良かったんじゃないかと思います。
とまあ課題は山ほどありますが
本書が発行された2013年から時代は進み、
より良い方向に進んでいる事を期待したいところです。
イギリスやカナダ、オーストラリアなどの
家庭医療先進国を見ると
アメリカ型の医療制度よりも
我が国が目指すべきはそちらではないかと思うだけにです。
あくまでも個人的な見解ですが
国民や国家のためになる制度を作り、
なおかつ医療従事者の負担増にならぬよう
その辺りの目配り、心配りも必要不可欠であろうと
考えております。
評価
おススメ度は ★★★★☆ といたしました。
いろいろ書きましたけど、
私にとっては大変勉強になる良書でした。
高齢化社会である現代を生きる我々にとっては
知っておいた方がよい内容だと思います。
おそらくまだまだ課題は多く、
大学病院、市中病院、開業医とは
別のラインとして家庭医を位置づけないと
結局は医師会じゃないですけど
既存の他勢力に巻き込まれてしまい、
効果は発揮しにくいのでしょうね。
国の強いリーダーシップが必要不可欠ですが、
果たしてそこまで
何をしても玉虫色の厚生労働省ができるのか?
それこそ財務省からの相当の圧力が掛からないと
動きは鈍いのだろうなとも思います。
結局は政治マターになり、
医療を理解している政治家がどの程度いるのか?
イギリスやオーストラリアの家庭医療を
少しでも知っている政治家は存在するのか?
もし詳しい人がいても
果たして厚労大臣などの要職に就けるのか?と考えると
なかなかに難題だなとも感じます。
家庭医療って
おそらく現行の医療ピラミッドからは
外れてしまうと思うんですよね。
でもこの外れた存在が陰に陽に
外から内からピラミッドを支えるようにも思います。
素人考えですけど、
医療界がどれだけ本気で家庭医療を考えるか?という
試金石のような存在かもしれません。
そして受け入れねば
ピラミッドは相当にガタが来るでしょうね。
あっという間に下が崩れます。
過重労働、過労死の問題、
キャリアの問題、
報酬の問題、
若手医師は去っていくでしょう。
その時に今まで踏ん反り返っていた上層部は
自分たちが現場に出て支えるのか?
自分たちも去るのか?という瀬戸際に立たされます。
後者を選ぶなら許されないでしょうね。
社会から制裁を浴びる気がします。
でも前者もできないでしょう。
年齢的に。
下が崩れたら上も崩壊。
我が国の医療は崩壊。
全国民が損をするどころか
相当に困ることになりますよね。
私利私欲ではなく公益を考えねばなりません。
果たして今後どうなるのやら…。
それと専門医の問題。
医師のキャリアに関しても
著者の主張はわかりやすく、
専門医機構の迷走も見てきただけに
もっとスッキリとした
国民目線の制度はできないものか?と
つい考えてしまいました。
だいたいがですよ、
いくらフリーアクセスだと言っても
医学知識がなく
医療をよくわかっていない一般人が
自ら医療機関を選ぶというのは酷だと思うんです。
そこを家庭医がかかりつけ医として機能し、
適した病院を紹介してもらえるのが当たり前となれば
無駄な医療も減ると思います。
素人はとにかく大きな病院に行けば安心とか、
大学病院が最善とか考えがちですからね。
このあたりの仕組みの改善も必要でしょうか。
家庭医療の問題に限らず、
医療だけの話しでもなく、
この国の様々なところで語られますが、
突き詰めると
机上の空論ではなく
エビデンスベースで地域のニーズを汲み取っていく。
そこに尽きるのだろうな…などと考えました。
それでは、また…。
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