ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

慨世の遠吠え 強い国になりたい症候群

 

おはようございます。

 

読書がライフワークになっている

医療業界のコンサルタント

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

よく言われることですが、

無知の知」は本当に大事ですね。

 

自分が知らないということを知っている。

知らないことに無自覚であることは

危険極まりなく、確実に自分を損させます。

 

知ったかぶりとか、

知った気になっているとか、

こういうのはすぐに化けの皮が剥がれますし、

知ったつもりになった時点で

その先を学ぼうとはしないですからね。

 

最近ではニュースもネットで読むじゃないですか。

ですがこれもかなり危ないんですよね。

 

だってタイトルだけ見て、

自分が興味のあるものだけ読むわけですよね。

 

それは別にいいとしても

興味のないものを読まないという弊害です。

 

だいたいが興味のあるものは知っているのであって

知らない興味のないものを読まないと

先が広がりませんし、

実は自分が知るべきはそっちであることは多いです。

 

常に視野を広げて、

興味のないものや知らないものを

知ろうとせねばなりませんね。

 

今回ご紹介する書籍は、

【 慨世の遠吠え 強い国になりたい症候群 】 です。

 

 

本書をピックアップした理由

『 慨世の遠吠え 強い国になりたい症候群 』

内田 樹 鈴木 邦男 鹿砦社 を読みました。

 

敬愛する内田樹さんは

実に様々な方々と対談してくれて

私にとっても大変に助かります。

 

鈴木邦夫さんのことは

ほぼ何も知らない状態でした。

 

内田さんが対談していなければ

一生何も知らないままだったかもしれません。

 

右翼の論客らしいですけど、

保守は好きですけど

正直、右翼と言われると

ちょっと敬遠してしまいます。

これは左翼も同じです。

 

私は偏っている人よりも

バランスの良い人が好きなので

ええ、内田さん、

そんな人と対談して大丈夫なの?と

つい思ってしまいましたが、

逆に、内田さん、

そんな人とも話せるんだと

興味が持ててしまうのが不思議なところです。

 

ただの内田びいきなだけですが、

「はじめに」をパラパラと読むと

鈴木さんも内田さんをリスペクトしているみたい。

 

ん、内田さん好きに悪い人はいないだろう…なんて考えて

おっかなびっくり本書を手に取ったのでした。

 

目次

第1章 日本の政治と外交

第2章 戦中と戦後の断絶

第3章 合気道をめぐって

第4章 『仁義なき戦い』を鑑賞して

第5章 戦後の相貌

 

感想

いや~、実に面白い。

右翼の論客?

ご本人もそう認めていますけど

とても柔軟な思想をお持ちで

冷静な思考をされていて

何より勉強家、読書家であります。

 

決して偏った方ではありませんね。

 

あとがきでは福島瑞穂さんのパーティー

内田さんと再会を果たしたようですが

右翼でここにいるのは自分だけと笑っていたそうです。

 

右翼でも左翼でも

すべて偏っているなんて思ってはいけませんね。

もちろん偏っている人もいるでしょうけど。

 

基本的には政治に関して語り合っているのですが、

その根底には人間とは?という

深い部分への探求があり、

それは哲学的であったり

武道の話しから身体性の話しであったり、

話題があっちこっちに飛んでも

本質を突き詰めようとしているから

とても興味深い内容になっています。

 

別にこのお二方のおっしゃることが

すべて正しいだなんて思いませんけど、

少なくとも知っておいたほうがよい、

もしくは考えておくべき角度を提示してくれています。

 

昨今では条件反射的に

何でも白黒ハッキリさせようとする

浅はかな考えも増えていますけど、

そこで立ち止まり、

その奥の奥にあるものを考えて、

白と黒以外の視点も持って

バランス感覚を持たねば

通用しない時代じゃないかと思います。

そういう考え方を本書では学べます。

 

それでは恒例の私がグッときた箇所を

ご紹介いたします。

 

議員というものが与野党含めて、

地方も国政も全部質が劣化している。

これは間違いないです。

都議会でも、各地の地方議会でも、

このところ不祥事が連続しましたけれど、

べつにこれは例外的な事件じゃなくて、

地方議員の程度が

全般的に低下していることの現われだと思います。

国会の議員のレベルも選挙ごとに低下している。

小選挙区になってから特にその傾向が顕著です。

執行部が候補者選定の権限を独占しているせいで、

世襲の議員と売れなくなったタレントばかりが

目に付くようになった。

もちろん、政党としては議席数は欲しい。

議席数は欲しいけれど、

政治的な固有の見識を持って一家言ある議員や、

個人的な支援組織をがっちり持っていて

執行部に逆える議員は要らないわけです。

数はあるだけ欲しいが、

できれば全員が「イエスマン」が望ましい。

結果的に党議拘束と言われたら、

黙って起立する人間しか候補者として

選ばれないということです。

(P.68)

 

我が国の政治が機能しない理由が

すべてここにありますね。

 

要は自民党はこの国がどうなろうと、

国民がどんなに苦しもうと

自民党が政権を握っていればいいと

そうとも言えるでしょうか。

 

でもこんな組織が長く持つとは思えません。

企業でも、行政でも、

崩壊する組織って

間違いなくイエスマンだらけですからね。

 

「自分たちはあんな政治的主張

 べつに共感しているわけじゃないんだけど、

 売れるから出す」と言っていました。

主張に共感するから出すというのならともかく、

共感してなくても売れるから出すというのは

出版人として末期的だと思いますね。

(中略)

だからメディアはもう「なにを訴えたいか」じゃなくて、

「なにを訴えると売れるか」を基準に誌面を作っている。

(P.88)

 

これもメディアの劣化というか、

マス「ゴミ」と言われるようになった

根本的な理由でしょうね。

 

とは言えまともなことばかり言っても

存続できなければ意味がありませんので、

まずは画期的なビジネスモデルを編み出して

その上でメディアとしての

本来的役割を果たさねばならないでしょうね。

 

言うほど簡単ではないでしょうけど、

それでもやらねばいけませんね。

 

ネットだと、自分の関心のあるものしか見ないから、

どうしても偏りが生じるでしょ。

(中略)

その点、新聞は自分の知らないことや

関心のないことも一応載っているから、

パッ、パッと見出しを見るだけでも

情報に接することができるじゃないですか。

(P.96)

 

すごくわかります。

ましてネット上ではクリックしたジャンルのものばかり

ご丁寧に何度も出してくれるわけですからね。

 

検索も同様ですよね。

必要な情報にたどり着かせてくれるのはいいですけど、

不必要でも重要な情報も大事なんですよね。

ってか、最近は宣伝広告優先で

必要な情報にすらたどり着けないですけどね。

 

このへんは知っているけど、

このへんは知らないことがあるっていう、

自分の知識の偏りについての情報を持っていないんです。

自分がなにを知らないのかを知らない。

「これ知っている。終わり」んですよ。

(P.96~97)

 

無知の知ですね。

何を知らないかを知っている。

これこそが知性ですよね。

 

でも知らないことが

恥ずかしくない時代なんですよね。

知らね~ものは知らねえんだよと強弁すれば

何となくマウント取れちゃいますから。

 

権利と義務のバランスが機能していません。

 

そういう人はある種の全能感を求めているんだと思いますけれど、

「全能感を求める」というのは、

その前段に深い無力感があるからだと思うんです。

(中略)

実際には、世の中のことって複雑怪奇であって、

だれか単一の陰謀主体が

すべてをコントロールしているなんていう

シンプルな作りであるわけがない。

でも、こんなふうに世界情勢の変数が増えすぎて、

一人の頭のなかで演算処理できる容量を超えてしまうと、

どこかで簡単な話に飛びつきたくなる。

世の中は複雑怪奇でよくわからない、と

放り出してしまうことができない。

それも一つの知性の働きなんでしょうけれどね。

(P.126)

 

これ秘密結社とか、

極端な思想の偏向について書かれてあるのですが、

何か答えを簡単に欲しがってしまうんですよね。

 

わからないものはわからないと認めないと

わかりやすさに負けてしまうのかもしれません。

 

「昔の侍は用のないところには出かけなかった。」ということです。

用のないところにフラフラ出かけてゆくから

無用のトラブルに巻き込まれる。

そう言われてみると、僕がこれまで関わったトラブルはすべて

「行かなくてもいいところに行って、

 会わなくてもいい人に会って、

 しなくてもいいことをした」時に起きていた。

そういうものなんです。

(P.162)

 

その通りだろうなと思います。

 

逆に言えば、

行くべきところに行き、

会うべき人に会い、

すべきことをする。

 

そういう人生って上手く行きそうです。

 

「兵法者は勝負を争わず、

 強弱に拘わらず、

 一歩を出でず、

 敵、我を見ず、

 我、敵を見ず」

(P.172)

 

太阿記という沢庵さんが書いたものですが、

本質を突いている感がありますね。

 

私たちは兵法者ではないので

そのまま当てはめるわけにはいきませんが、

生き方の参考にはなると思います。

 

わずかなサンプルから

「これ以外になかった」と結論するのは、

歴史を語る方法ではないです。

(P.254)

 

何でも白黒つければいいってものではありませんし、

自分の意見や考えと異なるものを無視して

自己主張を押し通すなんて

知性の欠片もないと思うんですね。

 

でも現代社会はそういう風潮が強く、

黒でも白と押し通すのが

当然のことのようになされています。

 

これはいつかしっぺ返しを食らうのではないかと

ひとごとながら心配です。

 

もっと相手を思い、

相手と同調し、

その上でコミュニケーションを成立させないと

白黒は一生つきませんし、

一生理解し合えないのではないでしょうか。

 

評価

おススメ度は ★★★★☆ といたします。

 

慨世。

世の有様を憂えて嘆くこと。

 

最近思うのは

私たちはもっと知性的で

あらねばならないのではないかということです。

 

知性的であるというのは

突き詰めれば

無知の知」に行きつくのではないでしょうか。

 

知ったかぶり。

わかったつもり。

これが最も危険です。

 

安易に答えを出さずに

わからないものはしっかり保留して

わかるまで学ぶ。

 

そういう姿勢が大事なのだろうなと

つくづく思いました。

 

それでは、また…。

 

 

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