ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

生きづらさについて考える

 

おはようございます。

 

読書がライフワークになっている

医療業界のコンサルタント

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

平成から令和に時代が移って

早くも5年めとなりますね。

 

例えばこの10年を振り返ってみて

とても生きやすくなったと心から言える人は

どのくらいにいらっしゃるでしょうか?

 

たぶん相当に少ないんじゃないかと思います。

 

特にコロナが広がり、

ロシアがウクライナに侵攻したこともあり、

ここ数年はひどいものですよね。

 

でも本当の理由はそこではないでしょう。

むしろ何年も放置してきた問題が

一気に噴き出してきた感じではないでしょうか?

 

今回ご紹介する書籍は、

【 生きづらさについて考える 】 です。

 

 

本書をピックアップした理由

『 生きづらさについて考える 』

内田 樹 毎日新聞出版 を読みました。

 

もうこのタイトルだけで即買いしました。

 

内田さんの著書は未読のものは

基本的に全て購入するスタンスの私ですから

買わない理由はないですし、

この現代社会の生きずらさについては

真剣に考えたいとも思っていたのです。

 

もう読む前から

これは面白いだろうな

スゲー勉強になるのだろうな…と

楽しみにしながら読み始めたのでした。

 

目次

第1章 矛盾に目をつぶる日本人

・私たちは歴史から何も学ばない

小津安二郎の写真から

・「黒船」を歓迎する感性

・知性を憎む知識人

・隣国に学ぶことを忘れた日本

・僕が家庭科を大事だと思うわけ

・空虚感を抱えたイエスマン

・情理を尽くして説くー書き手に求められているもの

・「新潮45」事件を振り返る

・無言でも無駄話でも「会議」になる

 

第2章 気が滅入る行政

・日本社会全体が「株式会社化」している

・安倍政権と米朝対話

・#MeToo運動は「セクハラ狩り」か

・思考停止のためのルール

・ビンボくさい日本のカジノ

・水は誰のものか

・崩壊へのタイムリミット

大阪万博という幻想

・60年代は一億総思い込みで上昇した

東京五輪のために「サマータイム導入」の愚

 

第3章 ウチダ式教育再生

・「教育」まで株式会社化したこの国の悲劇

・格付けできないのが「知」

・企業が望む「即戦力」の正体

・「イエスマンシップ」に屈した教職員

・街場の東大論

・「金魚鉢」のルールとコミュニケーションの誤解

・「最悪の時代」を生き抜くための学び方

 

第4章 平成から令和へ生き延びる私たちへ

・平成から振り返る、昭和的なもの

・ウチダ式ニッポン再生論ー東北に優先して資源を集中させよ

・学校の「安全神話」が起こす悲劇

天皇というフィクション 「天皇主義者」宣言について聞く

 ー統治のための擬制と犠牲

・ニッポン「絶望列島」化ー「平成」の次を読み解く

・再びアメリカに敗れた日本ー「平成」を総括

・日本人の「自由」を再定義する

・中国の若者よ、マルクスを読もう

 

第5章 人生100年時代を生きる

破局の到来

・定年後をどう生きるか

・街場の2019年論

 

感想

率直に申し上げて

期待通りであり、期待以上でもあります。

大満足です。

 

本書はサンデー毎日に寄港していたエッセイを中心に

様々な媒体に書いたコンピレーション本です。

 

発行されたのは2019年8月ですが、

その前に書かれたものばかりですから

時代的にはちょっと遅れてます。

 

決して最新情報が書かれているものではありませんが

そこはさすがの内田さんです。

 

物事の本質をズバリと突いてくれますので

時代なんか全く関係ありませんし、

内田さんの主張は他でも応用が可能です。

 

私たちに生きる術、生存戦略を教えてくれます。

正直、読まないのはあまりにももったいないと思いました。

 

それでは恒例の私がグッと来た箇所をご紹介いたします。

 

たしかに、議論をだらだら引き延ばして、

何も決めないでいるうちに、

想定外のことが起きて、

「こうなったら、もうこれしかない」という解に

全会一致で雪崩れ込んでゆく…というのが、

一番「角の立たない」合意形成ではあるわけです。

それでうまくゆくこともあります。

けれども、この意思決定プロセスの弱点は

限られた時間内には

意思決定をすることができないということです。

手をつかねて合意形成の機が熟すのを待つという

やり方は黒船来航とか、

外交条約締結とかいう

「待ったなし」という局面には対応できない。

現に、そういう局面に遭遇したときも、

幕閣たちはその伝統的な

「だらだら引き延ばす」戦術を採用したのですが、

欧米にはその手が通じなかった。

「だらだらしているうちに、落ち着くところに落ち着く」という

意思決定ができない場合は

「合意形成を待たず、誰かに権限を一任して、

 失敗した場合には責任を取らせる」というのが

日本における意思決定の「プランB」です。

(P.26~27)

 

う~ん、確かに日本らしい。

もうこれは良くも悪くもですよね。

まさに伝統芸でしょうか。

ただこれが通用しなくなってきているのは間違いなく、

そろそろ維新のように

若い人たちが独自の意思決定プロセスを

編み出してもいいのかもしれませんね。

 

「定義についていまだ合意のない語」について

思量することは決して悪いことではない。

むしろ、それは知性を活性化する

きわめて効果的な方法だと私は思っている。

それは「問題の解」ではなく、

「問題のありか」を探りあてるためのツールだからである。

(P.34)

 

過去に捉われている人と

未来をより良いものにしようとしている人の

分断とでも言えばいいでしょうか。

 

だいたいイチイチ文句を付けてくる人は

ロクなものでもないと思いますけど。

 

人間の知性は時代が変わろうと、

土地が変わろうと、

実はたいして変わりはしない。

全員が知的に卓越することもないし、

全員の知性が不調になることもない。

どの時代でも、どの集団でも、

賢愚の比率は変わらない。

変わるのは賢愚の分布だけである。

(P.46)

 

もうひとつ言えるのは

エリートがバカになると

どの時代でも、どの集団でも、

全体がダメになるということでしょうか。

 

私たちが論理の筋目を通し、

論拠を示し、

出典を明らかにし、

情理を尽くして説くのは、

読者が身内ではないからだ。

自然科学の論文は精密なエビデンス(科学的根拠)と

厳正な論理に基づき、

主観的願望を介入させないように書かれているが、

それは同じ分野の専門家たちの厳しい査定的なまなざしを

想定しているからである。

文系の物書きには

それほどの学術的精密さは求められないけれども、

「情理を尽くして説く」という構えは

分野にかかわらず

ものを書く人間が手放してはならない基本ルールである。

(P.58)

 

やはり学問は重要だと思う。

我が国では政治や行政が学問を壊してきたけど

これはとんでもない愚行であり、

事実、この国は落ちぶれていくばかりでもありますね。

政治や行政は学問を活かすべきなのです。

 

言論で生きる人間が

自説を世に問うときには

「自分が言わなければ誰も言う人がいないこと」を

選択的に言うべきだというのが僕の考えです。

(P.60~61)

 

ビジネスも一緒です。

自分がやらなければ誰もやらないこと。

それこそが新規ビジネスであり、

イノベーションの種ですね。

 

日本人は、

「今のプランAが失敗した場合の

 プランBを用意する」ことを

敗北主義と呼ぶ。

(P.98)

 

だから大東亜戦争は大負けして、

経済戦争でも結局は負けて

国力は衰えるばかりなのですよね。

戦略、戦術のない国の末路でしょうか。

 

政治家にとって一番大事な資質は公共性でしょう。

公共性というのは、

「努力することで自分の利益を増大させる」という

発想とは無縁だから。

秀才たちは努力したらそれにふさわしい報酬を求める。

個人的努力の報酬は

きっちり個人宛てに戻ることを要求する。

自分の努力によって「みんな」が幸福になるのを見て

幸福になるというマインドは秀才には希薄です。

(P.165~166)

 

そっか、そんなものなのか。

言われみれば確かにとも頷けます。

ノブレスオブリージュがないから

この国は欧米に勝てないんだな…。

 

武道の教えに「座を見る・機を見る」ということがあります。

座とは「いるべき場所」、

機とは「いるべき時」のことです。

「すべての条件が整って、

 絶対にここしかないという

 正しいポジション、正しいタイミング」というふうに

理解されるかも知れませんが、

そうではありません。

武道的な意味での「正しい場所」とは

「どこにでもいける場所」のことであり、

「正しい時」というのは

「次の行動の選択肢が最大化する時」のことだからです。

(P.180~181)

 

サバイバル戦略としては

「超」重要な教えだと思います。

そして「正しい」ものを探して

逆に戸惑っている人が何と多いことか?とも思います。

 

人は誰でも平等であるべきですけれど、

その理想を実現するためには

「自分には他の人よりも多くの責務がある」という

自覚を持つ人間が要る。

貴賤の差のない世界を実現するためには

ノブレス・オブリージュ(高貴であることの責務)」を

感じる人が要る。

自分には他の人より多くの責務があると感じる人がいなければ、

この社会を住みやすいものにすることはできません。

(P.224)

 

どんな組織でも、どんな社会でも

そうなんだろうな…と思いますね。

オレ様化して、クレクレ君になっている人ばかりでは

その組織、社会はお先真っ暗です。

志高く、大義を持っている人の犠牲心が

組織、社会には必要なのですね。

 

自分の生命や財産を安定的に確保したいと思ったら、

「他人のものをいくら奪ってもよい」という

ルールで回っている社会より

「他人のものには手を出さない」という

ルールを成員が内面化している社会にいる方がいい。

全員が自己利益追求を優先させると、

社会は「万人の万人に対する戦い」の場になり、

自己利益が安定的に確保できない。

だから、近代市民社会では、

成員一人一人が少しずつ私権の追求を抑制し、

私的資源を差し出して、

「公共(res publica)を立ち上げた。

(P.272)

 

歴史は繰り返すと言いますけど

昨今の我が国を見ていると

貧乏だった時代に逆戻りしそうです。

 

また私利私欲にまみれていて

少なくなるばかりのパイを分捕り合う構図が

見え隠れしていますよね。

 

こんなだからさらにパイは小さくなり、

1人1人の取り分も少なくなるばかりです。

 

社会が壊れてしまう前に

オレは要らないと言える人が必要なのでしょう。

 

特に強欲ジジイたちに言い聞かせたいですね。

あんたらのせいで若者は苦労してるんだよ。

 

評価

おススメ度は ★★★★★ といたします。

 

時代の変化が早くなり

先行きが全く見えない世の中ですし、

私たちが日常的に得る情報量は増える一方です。

 

これをどう解釈すべきなのか?

こういう時にどうしたら良いのか?

 

わからない事って多いと思うんです。

でも内田さんはそこにズバリと直言してくれます。

 

別に答えを教えてくれるんじゃないんです。

あくまでも考え方や見方であります。

 

でもこのヒントが頭をクリアにしてくれて

自分の知性を活性化させてくれます。

 

本書もそんなヒントがあちこちに散りばめられています。

私はメチャクチャ勉強になりました。

おススメです。

 

それでは、また…。

 

 

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