おはようございます。
読書がライフワークになっている
医療業界のコンサルタント
ジーネット株式会社の小野勝広です。
最近、企業の在り方を考えることが多いです。
もちろん自社をどうするか?もありますが、
日本社会全体を考えています。
それこそ資本主義のままでいいのか、
働くとは何ぞや?仕事とは?
職業とは?キャリアとは?のように
多角的、多面的に考えているつもりです。
私ごときが考えたからと言って、
別に大したことができるわけではありませんが、
それでも考えざるを得ないのです。
きっと「過渡期」なのだろうなと思います。
100年後には今の時代がポイントと
言われそうな気がします。
現代を生きる私たちは、
明治維新から昭和の近代史を
もっと学んだ方がいいと思います。
そこには高度経済成長を果たしたのと裏腹に、
今にも続く大変大きな問題が内包されているからです。
今回ご紹介する書籍は、
【 黄金峡 】 です。

本書をピックアップした理由
『 黄金峡 』
城山 三郎 講談社文庫 を読みました。
久しぶりの城山作品です。
今まで何冊もの城山作品を読んできましたが、
残念ながら私の積ん読本棚には
本書を除いてあと二冊しかありません。
ふとした時に、
古本屋や、ネット上で探してはいるのですが、
なかなか見つからなくなってきました。
ちょっと寂しいです。
前の本を読み終わり、
よし次は城山さんと思い、
今回は本書を手に取りました。
目次
黄金峡
あとがき
感想
本書は、東北の静かな山村に持ち上がった
巨大ダム建設計画をめぐり、
そこに暮らす人々の生活、誇り、欲望、不安、怒り、
そして諦めが揺さぶられていく物語です。
山村に暮らす人々にとって、
土地は単なる不動産ではありません。
先祖代々受け継いできた暮らしの場であり、
家族の記憶であり、
自分が自分であるための根っこのようなものです。
ところが、外からやってきた開発計画は、
その土地を「補償金」という
数字に置き換えていきます。
もちろん、ダム建設には大義があります。
電力、水資源、治水、産業の発展。
国や社会の成長のために必要なのだと言われれば、
正面から反対するのは簡単ではありません。
高度経済成長期の日本においては、
なおさらだったでしょう。
貧しさから抜け出し、
豊かになることが善であり、
近代化こそが未来であり、
個人や地域の犠牲はやむを得ない。
そんな空気があったのだと思います。
しかし城山三郎さんは、
そこに安易に乗りません。
大きな計画の前で、
小さな人間がどう壊されていくのか。
善意や大義のように見えるものが、
人間の心にどのようなひずみを生むのか。
補償金というお金が、
村人同士の関係性をどう変えてしまうのか。
そこをかなり冷静に、
そして静かに描いています。
読んでいて強く感じたのは、
「開発」とは何かという問いです。
私たちは、便利になること、
豊かになること、効率が上がることを、
つい無条件によいものだと考えてしまいます。
道路ができる。
ダムができる。
ビルが建つ。
企業が進出する。
雇用が生まれる。
数字だけを見れば、
それは進歩であり、成長であり、
経済効果なのでしょう。
しかし、その裏側で失われるものがあります。
景色が失われる。
暮らしが失われる。
人間関係が失われる。
共同体が失われる。
土地への愛着が失われる。
そして何より、自分の人生を
自分で決めているという感覚が失われる。
これは現代にもそのまま通じます。
いまの社会でも、
私たちは日々、
さまざまな「開発」や「改革」や
「効率化」にさらされています。
DXだ、AIだ、
再開発だ、統廃合だ、
M&Aだ、合理化だ、生産性向上だ。
言葉だけを見れば、
どれも正しそうに見えます。
むしろ反対するほうが
時代遅れに見えることすらあります。
でも本当にそうでしょうか。
その改革は誰のためなのか。
その効率化で誰が幸せになるのか。
その成長の裏で、
誰が声を失っているのか。
その数字の陰で、
誰の人生が削られているのか。
ここを問わない社会は危ういです。
本書のダム建設計画も、
単に善悪で割り切れる話ではありません。
開発側が完全な悪で、
住民側が完全な善という単純な構図ではない。
住民の中にも賛成する人がいる。
反対する人がいる。
補償金に心を動かされる人もいる。
土地を守りたい人もいる。
現実とはそういうものです。
だからこそ苦しい。
正しさがひとつではないから、
人は迷います。
生活があるから、お金にも揺れます。
家族があるから、将来にも怯えます。
村のため、家のため、
自分のため、子どものため。
それぞれの言い分があり、
それぞれの正義がある。
城山三郎さんのすごさは、
こうした人間の揺らぎを、
きちんと人間として描くところにあると思います。
経済小説、社会派小説と呼ばれる作品でありながら、
そこにあるのは制度や政策の話だけではありません。
むしろ中心にあるのは、人間です。
組織に翻弄される人間。
時代に押し流される人間。
お金に迷う人間。
誇りを守ろうとする人間。
自分でも気づかないうちに
変わってしまう人間。
ここに城山作品の魅力があります。
私は、経営やキャリアを考える立場として、
本書をかなり複雑な気持ちで読みました。
経営者は、
ときに大きな判断をしなければなりません。
組織の存続のため、
社員の生活のため、顧客のため、社会のため。
きれいごとだけでは済まない判断もあります。
しかし、その判断が誰かの人生を押し潰していないか。
大義の名のもとに、
弱い立場の人を黙らせていないか。
数字や計画や効率だけで、
人間を見失っていないか。
ここは常に自問しなければならないと思いました。
これは、クリニック経営や
医師のキャリアにも通じます。
病院の統廃合、医療機関の再編、
医師の働き方改革、地域医療構想、診療報酬改定。
どれも必要な議論ではあります。
しかし、その制度変更のなかで、
現場の医師や患者さん、
スタッフや地域住民の人生がどう変わるのか。
そこまで見なければ、
本当の意味での改革とは
言えないのではないでしょうか。
キャリアも同じです。
転職すれば条件が良くなる。
開業すれば自由になる。
年収が上がれば幸せになる。
そんな単純な話ではありません。
そこには家族があり、地域があり、
患者さんがいて、責任があり、
自分自身の価値観があります。
数字で測れるものと、
数字では測れないもの。
その両方を見なければ、
キャリアの判断は危うくなります。
本書はダム建設を描いた小説ですが、
私は「人間が大きな構造に飲み込まれる物語」として読みました。
国家、企業、行政、資本、時代の空気。
そういう大きなものの前で、
個人はとても弱いです。
声を上げても届かないことがある。
正しいと思っても押し切られることがある。
お金の前で関係性が壊れることもある。
それでも、人間は考えなければなりません。
自分は何を守るのか。
何なら手放せるのか。
何に対しては最後まで譲れないのか。
どこまでが生活のためで、
どこからが魂を売ることなのか。
こういう問いを持たないと、
人は簡単に時代に流されてしまうのだと思います。
正直に言えば、本書は私にとって、
城山作品の中で
最も胸に迫った一冊ではありませんでした。
もっと強く揺さぶられた作品は他にもあります。
もっと人物に感情移入できた作品もあります。
そういう意味では、
評価としては控えめになります。
しかし、読み終えて時間が経つほどに、
じわじわと残るものがあります。
それは、城山三郎さんが見ていたものの深さです。
城山さんは、経済や組織や企業を描きながら、
いつも人間を見ていた作家なのだと思います。
社会の仕組みを描きながら、
その仕組みに傷つけられる人間を見ていた。
権力や資本を描きながら、
そこに巻き込まれる弱き人々の声を拾おうとしていた。
だから、城山作品には今でも読む価値があります。
むしろ現代のほうが必要かもしれません。
AI、資本主義、グローバル化、
再開発、効率化、合理化。
私たちは、また別の形の「ダム建設」の時代を
生きているのではないでしょうか。
巨大な計画やシステムの前で、
個人の生活や尊厳が後回しにされていないか。
便利さや成長の名のもとに、
何か大切なものを水の底に沈めていないか。
本書は、そんな問いを投げかけてくれます。
城山三郎さんには、やはり感謝しかありません。
こういう作品を残してくれたからこそ、
私たちは過去の日本を通して、
今の日本を見ることができます。
高度経済成長の光だけでなく、
その影も見ることができます。
そして自分たちが
これからどんな社会をつくるべきかを
考えることができます。
本書は派手な感動作ではありません。
しかし、社会とは何か。
開発とは何か。
豊かさとは何か。
人間の暮らしとは何か。
そういう問いを
静かに突きつけてくる一冊です。
経営者だけでなく、働く人、地域に生きる人、
社会の変化に違和感を持つ人には、
読む意味があると思います。
城山三郎さんの作品は、
過去を描きながら、
いつも未来への警鐘を鳴らしています。
だから私は、
これからも城山作品を読み続けたいです。
読後にすぐ熱くなる本ではなく、
あとから静かに効いてくる本でした。
評価
おすすめ度は ★★★☆☆ といたします。
私の城山作品に対する評価としては
かなり今ひとつの感じです。
過去読んだ本と比較すると、
どうも気持ちが入らなかったんですね。
ダム建設計画というシーンが
私の現実に程遠かったのか、
高度経済成長期というのが
実感として刺さってこなかったのか、
少し残念に思いました。
それでは、また…。
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