おはようございます。
読書がライフワークになっている
医療業界のコンサルタント
ジーネット株式会社の小野勝広です。
子どもの頃に、
「古典を読め」と言われた人は
わりと多いと思います。
私自身もその一人ですが、
学校の先生だったのか、
親から言われたのか、
そのあたりはまったく覚えていませんが、
なぜか「古典を読め」という言葉だけは
頭にしっかりとインプットされています。
そうは言いましても、
古典は読みにくいですし、
子どもではその深い意味が理解できません。
それなりの読書家だった私でも、
古典を読めるようになったのは、
30歳を過ぎてからだったでしょうか。
誠にお恥ずかしい限りですし、
どう考えても遅きに失したと言わざるを得ませんが、
それでも、遅ればせながらでも、
読めるようになったことには意味があります。
そう思わざるを得ないだけの話ですが、
それでもいいんです。
40代、50代になってからは、
過去とは比較にならないくらいに
古典に手を出せるようになりました。
ここからどこまで挽回できるか。
地道な楽しみとして、
これからも古典を読もうと思います。
今回ご紹介する書籍は、
【 三酔人経綸問答 】 です。

本書をピックアップした理由
『 三酔人経綸問答 』
中江 兆民 先崎彰容=訳・解説
角川ソフィア文庫 を読みました。
「三酔人経綸問答」については、
どこかで見たことがある程度の認識でした。
「中江兆民」にしても、
社会の授業で出てきたかなというレベルです。
そんな私ですが、
本書をSNSで紹介していた方がいて、
何となくピンときたのです。
これは読むべきかもしれない。
こういう第六感は大事にするほうですし、
きっと運命の糸に導かれたのだと信じています。
最初は岩波文庫を読もうかと思ったのですが、
難解すぎて読めない可能性もあるだろうと考えて、
角川ソフィア文庫の
「ビギナーズ 日本の思想」をセレクトしました。
果たして読み込めるのか。
こわごわしながら読み始めたのでした。
目次
三酔人経綸問答 現代語訳
○南海先生はこの現実社会の地理を知らない
○民主主義者と侵略主義者が南海先生を訪問する
○海防は野暮の最たるもの
○アジアの小国から理想の大国現る
○フランス王ルイ一六世は幸福になった
○八公、熊公のために大気炎を吐く
○漢学先生、心機一転の一言を
○ああ羨ましいことよ、ああ気の毒なことよ
○自答して笑いながら、漢文のカスだと言う
○法律の大議論
○豪傑君は少し時代に遅れた
○何らかの現実的経済政策が、後に必ずここから生まれるはず
○優れた才能をもち、ずば抜けた見識を備えた者が、
はたして世間にいるだろうか いるとも、いるとも
○旧自由党と改進党の顔ぶれ
○旧自由党は必ず怒り、必ず笑うだろう
○政治の相撲取りたち
○世界の書記官はみんなこんなものだ
○政治の外科医の出現
○この一節の文章には多少の自負がある
○ヴィクトル・ユゴーの全集にもバイロン卿の全集にも見当たらない
○南海先生はごまかした
三酔人経綸問答 原文
解説 先崎 彰容
感想
本書は前半部分が「現代語訳」であり、
後半は「原文」を掲載するという
よくあるパターンの構成です。
そうとは知らなかった私は、
前半の現代語訳だけを読み、
さすがに原文は飛ばしました。
しかし「解説」が大変に充実しており、
解説を読んだあとは
現代語訳をおさらいのつもりで読みなおしました。
これにより理解度はグッと上がりましたし、
本書の価値がよくわかりました。
もっと対談形式になっているかと思いきや、
「洋学博士」が自分の主張を長く述べ、
それに対して「豪傑君」が反論し、
最後に「南海先生」が話をまとめる。
もう少し喧々諤々の議論をして欲しかったですが、
これはこれで成立しているので
致し方ないというところでしょうか。
時は、幕末から明治初期。
良くも悪くも開国させられてしまった我が国は、
富国強兵を旗印に、
西洋に追いつけ追い越せという時代。
留学して学んだり、文物から知識を得たりと
必死に西洋化しようとしていたことでしょう。
そんな時代に中江兆民という
わが国の英才が考えていたことを
三人の論者を通して語らせる。
今の時代から見ると、
まだまだ浅慮なところはありますけど、
この時代では最先端であったことは間違いないでしょう。
そして今でも通じる部分や、
今よりも深く洞察している部分もあり、
そこはやはり哲学的な要素と言えそうです。
現代人はもっと哲学を学ぶべきかもしれません。
古典を読む価値は、
昔の人の答えをそのまま受け入れることではないのでしょう。
むしろ、100年以上前の人が何を悩み、
何を考え、どんな未来を想像したのかを知ることで、
今の自分たちの常識を疑うことに意味があります。
時代が変わっても、
人間の欲望や恐怖、権力への執着は
それほど変わっていません。
だからこそ古典は、
過去を学ぶ本であると同時に、
現代を映す鏡にもなるのだと思います。
本書を読んで、そんな感想を持ちました。
それでは恒例の私がグッときた箇所をご紹介いたします。
「ああ、相手は無礼でわれわれには礼がある。
相手には道理あらず、
われわれは道理にかなっている。
彼らの文明は野蛮で、
われわれの野蛮が文明なのである。
彼らが怒りで暴力をほしいままにし、
一方のわれわれが微笑んで仁を守るとすれば、
彼らはいったい何をわれわれに対してできるでしょうか。」
(P.14)
きっと多くの人がこの文章を読んで、
アメリカという国が頭に思い浮かぶでしょうし、
トランプ大統領の顔が思い出される人も多いでしょう。
人類は進化していないどころか、
まさに「業」の世界と言いますか、
私たちは我が身を振り返り、
歴史から学ぶ必要があるのだと思います。
そして、これは国家間の問題だけでなく、
個々の問題でもあるのは間違いないでしょう。
人間関係というものは、
本当に難しい。
すぐ近くにいる人ですら理解できないのだから、
国が違い、人種が違い、宗教が違えば、
なかなか一致点を見いだすことは困難でしょうか。
別に世界市民のような理想を語るつもりはありませんが、
せめてすぐそばにいる人とは
考えの違いがあってもコミュニケーションが取れるよう
自分と他者、自分と組織、自分と社会の間で
かしこいポジショニングを取りたいものですね。
そもそもいわゆる進化とは、
不完全から完全のかたちにむかい、
不純な状態から純粋な状態になる、
このことを言います。
これを一般的に言うと、
はじめは醜いものが
最後は美となり、
以前は悪かったものが
後にはよくなるという意味です。
(P.28~29)
キャリアや人生について、
多角的に考えることが習慣になっている私としては、
「進化」を社会的に捉えたり、
組織論や、文化論に置き換えるのは
相当に無理があるのではないかと感じます。
サッカー日本代表の選手が、
「個」の成長について発言しますが、
個が強くなるから組織も強くなり、
その先に国家が強くなるものではないかと思います。
私たち個々が、
今より少し良い自分をつくることの延長にしか
全体の進化はあり得ないのではないでしょうか。
なので、近年、
フランスの哲学者エミール・アコラースは、
さまざまな法律の区別について、
世にいわゆる万国公法を道徳のなかにいれて、
法律に分類しませんでした。
彼は、およそ法律というものは必ずこれを司り、
施行する役人がいて、
また違反するものがいれば必ず処罰する。
そうでなければ真の法律ではないのだと考えました。
一方、道徳は守るも守らないも、
人びとの偽りのない心次第。
万国公法もまたこのようなものです。
施行にかかわる役所はないし、
懲罰を司る役人もいない。
これでは法律とは言えません。
(P.53)
幕末から明治初期、
日本人はこの「万国公法」を
まるで神のように崇め奉りました。
坂本龍馬などは、
これを武器に「いろは丸沈没事件」の際には、
紀州藩から賠償金を勝ち取ったのですね。
でも、その万国公法を生み出したヨーロッパでは、
法律ではない、道徳だという考えが発表されて、
それが中江兆民にも知られていたというのは
とても驚きました。
どうしても私たち日本人は、
お上の言うことは絶対という
おかしな風潮を持っていますから、
常識を疑う姿勢というのは大切だなと思いました。
これこそが「哲学」の醍醐味と言えそうですね。
大体において、
国家同士が恨みあう理由は
事実ではなく、
デマからなのです。
事実を洞察すると全く疑問の余地がないのに、
デマで憶測すると
とても恐ろしいことになるでしょう。
各国が互いに疑うのは神経症だからです。
青色の眼鏡をつけて物を見れば、
すべては青色に見えてしまう。
僕はいつも、
外交家の眼鏡が無色透明でないことを
憐れんでいるのです。
(P.109)
歴史上の戦争のほとんどは、
デマから始まった。
すべては憶測が恐怖に転換し、
先手必勝とばかり武力を行使した。
確かにそうとも言えそうですし、
これも人類が進化しない重大な思考回路です。
何だかなぁと思いますけど、
権力者ほどおかしな伝統を引きずっている。
そうとも言えるのかもしれません。
評価
おすすめ度は ★★★★☆ といたします。
もともとの期待が大きかっただけに、
満点まではあげられないなという感じです。
でも、勉強にはなりましたし、
明治の息吹のようなものを感じることができて、
その点では読んで良かったと思いました。
特に「解説」を読むと、
土佐藩士としての中江兆民が、
東洋のルソーと呼ばれるまでになる
歴史的な事実が理解できました。
そのうえで再度現代語訳を読むと、
本書の意義や意図が再認識できます。
しかし中江兆民と頭山満が深い仲だったとは。
歴史は本当に面白いものですね。
それでは、また…。
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