ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

「改革」のための医療経済学

 

おはようございます。

 

読書がライフワークになっている

医療業界のコンサルタント

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

医療に対して

皆様はどんな風に見ていますでしょうか?

 

巷に流れるニュースでは

医療の課題や問題ばかりが取り上げられていて

そもそも医療って何なんだ?

医療って本当に必要なのか?

私たちの生活にとって医療はどうあるべきか?など

深く考えたことなどはない方が

多数派ではないでしょうか?

 

そんな私も今の仕事に就いてから

医療を勉強するようになり、

ようやく人並みの知識が身についただけなので

決して偉そうなことは言えませんが、

遅ればせながらでも知って良かったと思いますし、

考えるようになって視野が広がった気もします。

 

私は医療はあらゆる産業の根幹であると考えています。

そして医療従事者はそれを担う貴重な専門家であるとも思ってます。

 

このコロナ渦でも

医療や、医療従事者の存在価値が理解されて

応援する人は増えていますよね。

 

残念ながら否定、批判、非難する心無い人もいますが、

社会的な衛生が守られること、

病気になった時にすぐさま診察が受けられること、

重症化した際に手術や入院などの適切な処置が取られること、

これらは私たちの生活に密着した

「超」重要なものなんですよね。

 

現状、医療に丸投げしている部分も多く、

これでは医療現場は持たないとも思います。

 

もっと多くの人が医療を学び、医療を知り、

社会システムとして

医療をより良いものにすべきではないでしょうか?

 

今回ご紹介する書籍は、

【 「改革」のための医療経済学 】 です。

 

 

本書をピックアップした理由

『「改革」のための医療経済学 』

兪 炳匡 メディカ出版 を読みました。

 

医療経済学…。

まだまだ学問としてポピュラーとは言えませんが

今後少しずつ注目度が上がるのではないか、

いやむしろ上がって欲しいと思っています。

 

昨今では医療と言えば

とにかく「お金」の問題ばかりが騒がれて

医療費を抑制しないと国が持たないなどと言われ、

とにかく医療費を下げることばかりが求められています。

 

しかしこれでいいのでしょうか?

無駄な箱モノよりも

医療にお金を掛けた方が

私たち国民にとっては

メリットが大きいのではないでしょうか?

 

本書はいつものごとくですが、

たまたま何かで知り、

いつか読もうとスマホのメモアプリに登録しておき、

Amazonでポチりました。

 

なかなかのボリュームでもありますので

気合いを入れて読み始めたのでした。

 

目次

1章 忙しい読者のための総括

 2章のまとめ 比較による医療の相対的な位置付け

 3章のまとめ 医療経済学に何ができるのか

 4章のまとめ 医療費高騰の犯人探し

 5章のまとめ 改革へのロードマップ


2章 比較による医療の相対的な位置付け

   3つの分類別に

 1節 医療問題の3つの分類

 2節 コスト(医療費)の比較

 3節 アクセス(医療へのかかりやすさ)の比較

 4節 医療の質の比較


3章 医療経済学に何ができるのか

 1節 誤解を解くための医療経済学の定義

 2節 医療と経済学の関係 

 3節 専門大学院(プロフェッショナルスクール)で

    求められる教育


4章 医療費高騰の犯人探し

 1節 疑われた5要因はいずれも犯人格としては小物

 2節 人口の高齢化が医療費に与えるインパク

 3節 医療保険制度の功罪

 4節 医療は必需品か贅沢品か

 5節 医師の誘発需要を巡る論争

 6節 長期介護医療費と急性期医療費の決定要因は異なるか


5章 改革へのロードマップ

 1節 制度改革の前に明らかにすべき価値基準

 2節 5つの効率の基準とその改善案

 3節 米国の平均入院日数が短く見えるカラク

 4節 効率の良い予防医療がコストを高騰させる理由

 5節 制度改革のためのインフラストラクチャーとは

 6節 改革案のまとめ


・なまけもののための英語勉強法

  継続のための工夫編

  資格試験筆記テスト編

  スピーチ・リスニング編

  ディベート・会議編

 

感想

この本は素晴らしいです。

是非、多くの方にお読みいただきたいです。

 

医師を始めとした医療関係者はもちろんのこと、

一般の方にも充分に理解できる内容です。

 

医療経済学なんて言うと

ちょっと難解なイメージがありますけど

とてもわかりやすく

また著者のスタンスが中立的であり、

ステークホルダーのどこに対しても片寄ることがなく

その点も好感が持てました。

 

日本の医療制度や医療体制はこのままでいいのか?なんて

よく言われますけど、

世界中の国々でも大きな課題になっているのですね。

 

アメリカやイギリスなども同様で、

現状では、これが正解だなんて仕組みはどこにでもなく、

暗中模索なんだなということが知れただけでも勉強になりました。

 

それでは恒例の私がグッときた箇所をご紹介いたします。

医療制度改革を議論すると言えば、

「抜本的な制度改革を、ただちに始めるための政策提言」を

提示することを期待される読者が多いかもしれません。

しかし、傍点で強調した3つの点について筆者は懐疑的です。

①について言えば、

制度改革の最終的な目標を「抜本的」に変えることは可能です。

その一方で、「現実的な改革」は、

その最終目標に近づくよう、

「暫定的」に行うべきであると考えているためです。

なぜなら、年金制度が

「中身にばらつきのない現金」の給付だけなのに比べ、

医療制度は

「中身としても数千種におよぶ多様な医療サービス」の給付を

多数の医療機関(2004年現在で9,000を超す病院、97,000以上の診療所)を

通じて行うため、

いかなる改革であれ

医療現場がある程度は混乱するという執行費用(コスト)が

生じることがその理由です。

すなわち、抜本的改革を急ぐほど、

この執行コストが大きくなるわけです。

(P.34)

 

何でも抜本的な改革をすればいいというものではありませんよね。

特に、多くの国民に影響する医療制度は

すでに走り続けていることもあり

そんなに簡単ではないのでしょう。

 

無責任に抜本的改革を求めるのは容易ですけど

きちんと責任を持った改革をしようと思えば、

どうしても現実的なマイルドな改革になるのでしょう。

 

現在、米国の医療経済学の水準が

世界をリードするほど高くなっている理由の1つは、

米国の医療費が先進諸国の中で

群を抜いて高いためと言えます。

(P.66)

 

日本国内では社会保障全体で

またその中で特に医療費は問題視されがちですが、

世界と比較すれば全然マシなほうなんですね。

 

経済がシュリンクし始めて

国家の財政が厳しくなりつつある昨今ですから

我が国も医療経済学の水準を高めていかねばなりませんね。

 

コストが日本より高い米国では、

有保険者の間ですら

そのアクセスは実は日本より一般的に悪いのです。

「日本の医療は3時間待ち、3分診療」

「米国の外来は1回の診療時間が15分」と比較されますが、

実際には米国では

「15分の外来の予約」を取るのに

「1週間」かかることも珍しくありません。

(P.68)

 

どちらがいいのか?

本来は国民が声を上げていかねばなりません。

 

左翼的に我が国の現状を

何でも批判すればいいものではないのですから

もっと世界各国の実態を知り、

我が国の医療制度、医療体制についてもよく知り、

その上でどうあるべきかを喧々諤々したいですね。

 

以上、「経済学は金儲けとは無縁」である現実を、

米国の例を挙げて説明しました。

そして、これらの事情と同じことが

医療経済学についても言えるのです。

医療分野でお金儲けを目指す人には、

医療「経済学」ではない、

医療「経営学」を学ぶことをお薦めします。

(P.80)

 

現状では医療経済学の発展は

我が国においては心許ないですが、

単なる金勘定、金儲けの話しを超えた

経済的な観点も重要ではありますね。

 

どうも我が国は学者を軽視する傾向がありますので

そこは国の未来のために冷静に考えねばなりません。

 

日本の優秀な研究者は、

「日本」のデータにアクセスできないために、

国際的な研究ネットワークから孤立する傾向にあります。

(P.227)

 

記録に残すこと。

情報を開示すること。

 

国の行く末を決める非常に重要なことですが、

あの政権では超ないがしろにされてきましたね。

 

政治は政権維持ではなく

100年後の国家運営を見据えて、

きちんとした体制を整えるべきですね。

 

これらの論文では、改革案を、その対象に因り、

①需要側(患者)を対象にした案と、

②供給側(保険組織、医療機関)の2つに区別しています。

そしてコスト抑制には

①需要側(患者)に経済的な動機を与えるより、

②供給側(保険組織、医療機関)を管理・規制の対象にするほうが

はるかに効率的であり、

成功する可能性が高いと述べています。

(P.240)

 

要は、患者の窓口負担増や

受診回数の抑制などは効果がありませんよということですが

残念ながら我が国では何度も行なわれていますね。

 

厚労省の役人たちは

本書をもっと研究し、

医療経済学を学ぶべきではないでしょうか。

 

米国の1980年代以降の改革事例を

日本にそのまま輸入することは、

比喩的に言えば、

体重100kgの極度な肥満の人(世界一高い医療費に苦しむ米国)が、

10kg減量に「一時的にのみ劇的に成功」した

ダイエットメニュー(65歳未満が対象の任意加入の医療保険市場における、

営利医療保険企業のシェア・役割増大)を、

「部分痩せ」を目指す標準体重以下の人

(医療費が先進国G7中6位の日本)に適用するようなもので、

下手をすると部分痩せどころか健康を害しかねません。

(P.246)

 

この比喩はちょっと笑ってしまいましたが、

言いえて妙と言えそうです。

 

何でもアメリカの真似をすれば

いいってもんじゃありませんよね。

 

日本がただちに始めるべき改革は、

将来どのような改革の方向を採るにせよ、

数少ない選択肢の中から方向を決め、

暗闇の中を全力で走り出すことのないよう、

チェックアンドバランス機構を

重層的にインフラとして整備すべきこと、

および公的皆保険制度の役割を堅持した枠内で可能な改革案を、

まずは1つ実施することと提言できます。

(P.247)

 

チェックアンドバランスって

我が国の苦手な分野でしょうか。

 

権力者が絶対視され、

権力者にすり寄る人が多いので

何度も誤った政策が打ち出されています。

 

やはり人は間違えるということを前提に

何層にもチェックアンドバランスを効かせたいですね。

 

医療はインフラですし、

国民皆保険制度は持続して欲しいので

社会的に医療に対する注目度を上げていきたいです。

 

評価

おススメ度は ★★★★☆ といたします。

 

メディアでは常識とされて

何度も発信されている情報が

実は誤っている。

 

こういうことはよくありますが、

医療に関しては

特にそういうケースが多いかもしれません。

 

おそらく医師や医療従事者ですら

本書を読めば認識が間違っていたという点は

少なからずあるのではないでしょうか?

 

私自身は医療の片隅で仕事をする1人の人間として

読んで良かった、

読まねば間違い続けたかもしれないと

安堵しました。

 

つくづく残念なのは

この国にはデータが少なく、

またあっても公開されておらず、

場合によっては虚偽記載もあり得るわけです。

 

まずはこの辺りから変えていくのが

結局のところ本当の改革に繋がるのでしょうね。

それでは、また…。

 

 

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