ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

生存教室 ディストピアを生き抜くために

 

おはようございます。

 

読書がライフワークになっている

医療業界のコンサルタント

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

日本社会はこれからどうなるでしょうか?

私たちの人生にはどんな影響が出るでしょうか?

 

こんな問いを立てたとしても

未来のことなんて誰にもわかりませんし、

答えがあるとも思えません。

 

でも現代社会では

わかったフリして独自の見解を

万人に、社会全体に、巻き散らす人は少なくなく、

良くも悪くも戸惑わせてしまっているように感じます。

 

どうしても私たちは早く答えを欲しがる傾向にありますけど

安易に手に入れた答えなんて

大した価値はないし、

むしろ害になることもありますね。

 

これからどうなるのか?

これはもう問い続けるしかないと思います。

 

そのために適切な「情報収集」をし続けて、

深い洞察と練りに練られた思考を手に入れたいですね。

 

結局、どうしたいのか?になるわけですし。

 

今回ご紹介する書籍は、

【 生存教室 ディストピアを生き抜くために 】 です。

 

 

本書をピックアップした理由

『 生存教室 ディストピアを生き抜くために 』

内田 樹 光岡 英稔 集英社新書 を読みました。

 

当ブログの読者様はご存知の通り、

私は内田樹さんをリスペクトしていますので

内田さんの書籍は何でも読むつもりです。

 

ただ…

ただひとつだけなかなか手が出ない分野がありまして

それが「武道」系のものです。

 

本書の対談相手である光岡英稔さんは

まさに一流の武道家らしいです。

 

内田さんのことだから

武道だけで終わらせないのは百も承知ですし、

そこからの広がりは間違いなく期待できます。

 

少しずつ広げていきたい思いもあり、

今回はチャレンジの意味も込めて

楽しみにしながら読み始めたのでした。

 

目次

第1章 生存のための文化とはなにか

第2章 古の身体文化 能と武術

第3章 生存のための学びと教えの作法

第4章 古の身体に帰って見える未来

 

感想

正直に申し上げますが、

私は光岡英稔さんを存じ上げませんでしたし、

武道に特別関心が高いわけでもなく、

本書で度々取り上げられている

暗殺教室」という漫画も知りませんでしたし、

読後も特に興味が持てたわけではありません。

 

そんな私でも本書は素晴らしい!

とても勉強になったと断言できます。

 

結局、入口が重要ではなくて

出口に至るプロセスが大事なんですよね。

 

だから武道や暗殺教室というのは

あくまでもきっかけであって

そこから何を考えて、どう受け止めて、

本質をどう捉えて

いかなる行動に繋げていくのか?

 

このプロセスこそが

現代社会に問われているんだなということが

よくわかりました。

 

その意味では本書は哲学書であり、

人生を学べる深い深い書籍と言えるでしょう。

 

内田さんの対談本は

対談相手が薄れてしまうくらいに

内田節が炸裂することが多くて、

私はそれが好きではあるんですけど

本書は光岡さんがまさに武道家らしくて

それは違う!それは私の考えとは違う!

そうじゃない!というように

わりと内田さんに反論することもあり、

それが珍しくて面白かったです。

 

それに対して内田さんは

喧嘩腰になるのではなく

上手く包み込んでいく姿勢も良かったです。

世渡り上手なのでしょうか。

 

それでは恒例の私がグッと来た箇所をご紹介いたします。

 

武術の技法もその意味では文化資本と言えるのかもしれません。

お金があるからといって

商品として市場で買えるものじゃありませんから。

それに、長期にわたる集中的な訓練が必要です。

もう一つ重要なのは、

なぜその技法の習得を思い立ったの、

どういう師に就いたのか、

どういう道友に恵まれたのか、

そういった点は実は個人的には

自己決定できないということです。

「ご縁」に導かれて、

気がついたら身についていたという点では

文化資本」の一つにカウントできるかもしれませんね。

(P.20)

 

そうかぁ、武道も文化資本なのか。

そう考えると必要性や価値が見えてくる気がします。

 

ええ、うちは門人たちには

「どんどん独立しなさい。

 自分の道場を開いて自分の弟子に教えなさい」と

いうふうに指導しています。

第一の理由は

人に教えるということが

自分にとってこの上なくよい修行になるからです。

弟子を育てようと思ったら、

まず技をきちんと身につけていないといけない。

教えるというのは

次世代に対して責任を負うということです。

それがとても重要だと思います。

(P.21)

 

もともと日本社会って

こういう承継が強かったのかもしれません。

寺子屋なんかもそうですよね。

 

文科省がしゃしゃり出てきて

自分たちの都合の良いように管理し始めて

それが日本の教育をダメにした?

 

別にこれ教育だけの問題ではなくて

日本が近代化する途上で失ってしまった

日本の良さ、日本らしさとも言えるのかもしれないなあ。

 

かつては「重いものは重く」

「軽いものは軽く」持ち、

その重みと軽さがある中で

「重みの中にある軽さ」や

「軽さの中にある重み」を感じていたと思います。

ですから米俵五俵を担ぐ農婦も

「重いものは重く」

「軽いものは軽く」というふうに、

重さや軽さに対する身体の理解と

そこから生じる重さや

軽さへの尊重があったのではないでしょうか。

(P.44)

 

これもガツンと来ました。

 

要は現代社会は効率至上主義に陥っていて、

それは実に便利な社会で

私たちにとっても恩恵が大きいので

弊害を考えずに全体として進んできたわけですけど

よ~く考えてみたら

できなくなったもの、失ったもの、

そういうものがあるんだよということですね。

 

生物としての自分の変化を感じ取るためには、

絶えず変化を測る度量衡

そのものを刷新してゆかねばならない。

そのことをなんとかして門人たちには伝えたいんですけれど、

やはり強い弱い、勝ち負けにこだわる人は、

相手と同じ自分を同じ条件のところに閉じ込めて、

単一の同じ度量衡で数値的に優劣を測りたがります。

(中略)

生き残ることですよね。

そう、それです。

だから死で完結する。

死ぬまでは勝ち負けはわからない。

(P.49)

 

今だけカネだけ自分だけ。

 

現代を生きる我々は

そうでなければサバイバルしにくいので

いつの間にか価値観として

善悪問わずに持ってしまっていますし、

行き過ぎは我が身を亡ぼすことにもなりかねません。

 

勝ち負け以外にも重要な価値観はありますし、

ゴールを近づけ過ぎずに

死という人間の当然の帰結まで

視野を長くすることも大事ですね。

 

自分が生きて行く上で欠かせない

足腰が抜けているから自信も持てず、

自身の身体が観えていないゆえに

現代人は頭しか使えなくなっています。

身体を動かすことなく

頭の中だけで辻褄を合わせようとして、

他人の意見と自分の意見のすみ分けもできず、

他人から得た情報を自らの経験を通さず

自分の意見であるかのように勘違いする。

他人の言葉で語り、

それを自分だと錯覚する。

生きるとはまずは自分一人で

現実に向き合えるかどうかが大前提のはずです。

しかしながら他人の意見を拠り所にする

私たちは自立することを恐れ、

それを肯定するイデオロギー

幸せを感じるようになりさえする。

そして他者の考えや評価に自分を委ねていく。

私はこれを人間の産業化として捉えています。

(P.74~75)

 

こ・これ、すごくないですか?

まさに後頭部をハンマーで叩かれて

大事なことに気づけよ!と言われた気分です。

 

家畜のように何も考えずに生きてもいいですが、

人間らしく、本来の人間らしく、

そして自分らしく、

自分と他者、自分と社会、共生しつつ

自己実現を目指すならば

ここから考えていかねばならない。

そうしみじみ感じました。

 

産業化か…本当にそうですね。

私たちは機械じゃない!

 

市場原理というのは

「売れるか売れないか」だけが問題であって、

商品の質が「よいか悪いか」は副次的なことなんです。

「売れる商品」が「よい商品」なのだから、

質については考える必要がない。

ビジネスマンたちの信仰箇条である

「マーケットはまちがえない」という

ルールを適用すればそうなる。

だから、

「いま、マーケットはなにを望んでいるか?」

だけが問題になる。

(P.142~143)

 

私自身もビジネスマンですから

声を大にして言いたいのですが…

ビジネスマンもバカ「だけ」じゃないですよ。

 

いや、自分の頭でモノを考えない

バカはたくさんいますけどね、

常にビジネスモデルは陳腐化していきますので

新たなものを考えていかざるを得ません。

 

賢い人たちは

すでに資本主義社会の限界であったり、

現行のマーケティングが騙しになっていたり、

ビジネスがこのままでいいとは思っていないでしょう。

 

早く勢力図を塗り替えて

世のため人のためになるビジネスを編み出したいですね。

 

「武術家は自分で有名になるのではなく、

 弟子が自分を有名にするんだ」

 

う~ん、う~ん、う~ん、

これは武術家だけじゃなくて

人の生き方として

どんな職業に就いていても

総じて言えることではないでしょうか?

 

いや言えなくなった現代社会だから

日本は弱体化したのかもしれません。

 

私自身も自省して

早速に明日からの行動に取り入れます。

 

通信手段や情報にアクセスするための

テクノロジーが発達したいまは逆に多様性よりも

「なにが自分のベースなのか」が問われてきます。

地域、風習、文化、家庭が

個々の人間のアイデンティティであり、

自信の源でもあります。

(P.224)

 

こういうことですよね。

今までは自分の内面と向き合わなくても

何となく生きてこれました。

 

幸い我が国は経済成長の結果、

先進国となり経済的には恵まれていましたから

自分を社会が引き上げてくれたのですね。

 

でもそういう幸福な時代は終わりを告げました。

私たち個々のサバイバルする力が問われます。

 

その時に真っ先に考えるべきは

自分は何者であるのか?と

自分を形成している

周囲の人々との関係性ではないでしょうか?

 

教育とは学ぶ者も教える者も

常に命懸けで生命の意味を問うことにある。

先人から託された教えを通じて自分と向き合う。

命懸けで取り組むことを次世代へと受け渡していく。

この行為こそが

人類の「生存」と「教育」に

つながっていくのではないだろうか。

(P.235)

 

何でも「管理」できると思っている傲慢な人が

この社会を引っ張っています。

 

明らかに時代遅れになりつつありますね。

私たち人間は管理なんてされたくないはず。

 

テクノロジーが旧態依然とした社会システムを壊し、

我々を解き放ってくれるきっかけともなるでしょう。

 

「古」から人としてのあるべき姿を学び、

自らの生存戦略を持てた人こそが

次の時代のオピニオンリーダーになるのではないか。

 

そういう管理とは真逆の時代が来ることを

個人的にはワクワクする思いで待ち望んでいます。

 

評価

おススメ度は ★★★★☆ といたします。

 

怖々と武道系に手を出したのですが

とても良かったですし、大変勉強になりました。

 

武道を特別視するのではなく、

それこそ私たちの身体や精神の一部として考えれば

ありとあらゆることに活かせるものだと感じました。

 

実はすでに他の武道系の本も

たくさん購入済みですので

少しずつ読んでいこうと思います。

 

それでは、また…。

 

 

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