ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機

 

おはようございます。

 

読書がライフワークになっている

医療業界のコンサルタント

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

医師の働き方改革

来年2024年に迫っています。

 

本当に大丈夫なのだろうか?

準備は整っているのだろうか?と

個人的にはかなり不安に思っています。

 

しかし社会の動きとして

この流れはもう止まらないでしょうし、

むしろ加速する一方だと思うのですね。

 

医師に限った話しではなく、

日本社会全体で

その意義をしっかり理解の上で

取り組んでいかねばならないでしょう。

 

今時、ブラック企業など許してはいけません。

 

セクハラやパワハラも一発アウトになりつつある今、

ブラック企業、特に法令違反の場合は

経営者の責任を追及し、

社会的に断固として許さないという姿勢が

必要になると考えています。

 

今回ご紹介する書籍は、

【 ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機 】 です。

 

 

本書をピックアップした理由

『 ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機 』

濱口 桂一郎 岩波新書 を読みました。

 

ジョブ型雇用…。

 

ここ数年で急に話題に上っていますが

私は個人的に当初から懐疑的なのです。

 

財界が政治をそそのかせて

大企業に有利なように

雇用体系を変えようとしているようにしか

見えないのですね。

 

おそらくその先には解雇しやすい環境を

確実に目指しているんじゃないかとすら思えるのです。

 

なんて…偉そうなことを言いつつも

それほどジョブ型雇用に詳しいわけではありません。

 

キャリアシーンで仕事をする以上は

雇用、労働に関する動きは

しっかり学んでおかねばならないとも自覚しています。

 

遅ればせながらではありますが

本書はある産業医の先生がおススメしており、

非常に興味深く思いましたので

勉強する気満々で読み始めたのでした。

 

目次

序章 間違いだらけのジョブ型論

第1章 ジョブ型とメンバーシップ型の基礎の基礎

第2章 入口と出口

第3章 賃金ーヒトの値段、ジョブの値段

第4章 労働時間ー残業代と心身の健康のはざま

第5章 メンバーシップの周縁地帯

第6章 社員組合のパラドックス

 

感想

本書はかなりおススメできます。

 

人事部などで採用に関わっている方、

労働問題に興味のある方、

働くとは何ぞや?と追求している方、

こういう方々は読まれるといいと思いますし、

そして経営者には必読の書と言えるでしょう。

 

知っておかねばならない事柄が

とても多いと感じました。

大変勉強になりました。

 

ジョブ型雇用については

その歴史から、各国の取り組みから、

我が国における経緯まで

非常に詳しく書かれています。

 

私自身知らないことも多かったですし、

何より感じたのは

労働問題というのもお国柄が顕著に現れるもので

これは医療制度などと同じですね。

 

他国の優れた策を組み入れればいいというものではなく、

その国に合った策が必要なのでしょう。

 

彼方立てれば此方が立たぬ…で

これをこう持ってくると

それはどうなる?あれはどうする?と

あまりにも多方面に影響が出てしまって

安易な導入は危険ですらあるのですね。

 

こういう構造上の問題などは

正直あまり考えたことがなかったので

とても勉強になりました。

 

労働関係の専門家は

よくご存じなのでしょうけど

おそらく一般にはあまり知られていないことが

かなり多いように感じました。

 

それでは恒例の私がグッと来た箇所をご紹介いたします。

 

まず初めにジョブありきで

そこに人をはめ込むという意味でのジョブ型は、

日本以外の全ての社会で行われています。

そのうち、たった一か国を除いた

全ての国は「解雇規制あり」です。

すなわち、全てのヨーロッパ諸国、

大部分のアメリカ諸国、全てのアジア諸国において、

正当な理由のない解雇は規制されています。

どんな理由でも、

あるいは理由なんかなくても解雇が自由とされているのは

アメリカ合衆国だけです。

確かにアメリカという国の存在感は大きいのですが、

だからといって、

他の全てのジョブ型の諸国を無視して、

アメリカだけにしか通用しない「解雇事由」が

ジョブ型の特徴だなどと主張するのは、

噓偽りも甚だしいものです。

アメリカ以外の全てのジョブ型の諸国と日本は、

解雇規制があるという点で共通しています。

いうまでもなく、

解雇規制とは解雇禁止ではありません。

日本もアメリカ以外のジョブ型諸国も、

正当な理由のない解雇はダメだと言っているのであって、

裏返していえば、

正当な理由のある解雇は問題なく有効なのです。

その点でも共通しています。

(P.10)

 

ジョブ型雇用は

ジョブに人をはめ込むのですから、

そのジョブがなくなれば

当然その人を雇用する意味がなくなります。

 

そうなると解雇という話しに

必然的になるのですが

アメリカ以外は解雇「規制」があるとはいえ

日本人は解雇されることに慣れておらず、

その都度問題が起こりそうな気がしますね。

 

日本において一番重要なのは、採用権限が、

ある仕事をする労働者を必要とする現場の管理者ではなく、

本社の人事部局にあるということです。

なぜ採用権限が本社の人事部局にあるかというと、

それは個々の職務の遂行ではなく、

長期的なメンバーシップを付与するか否かの判断だからです。

これが日本の採用法理の根源にある考え方です。

(P.30~31)

 

本書ではジョブ型と対比する形で

メンバーシップ型、

つまり今までの日本の普通の雇用ですが

この対比は実に興味深かったです。

 

戦後、ずっとメンバーシップ型でやってきて

急にジョブ型と言っても

そう簡単ではないことがよくわかりました。

 

ジョブ型の社会における労働組合とは、

基本的に同一職業、

あるいは同一産業の労働者の利益代表組織です。

従って、同一職業の労働者の利益を代表するものとして、

この仕事は幾らということを決めます。

それもできるだけ高く決めようとします。

それが労働組合の任務です。

メンバーシップ型の社会においては、

労働組合はそもそも全然性格が違います。

同一企業に属するメンバー(社員)の利益代表組織です。

社員の社員による社員のための組織です。

ですから、やることが全く違います。

(P.37)

 

メンバーシップ型からジョブ型に移行すれば

労働組合の役割が変わらざるを得ないということですが、

果たして現在の弱体化した日本の労働組合

適した形に変わることができるのか?

 

かなり不安ですし、

ステークホルダーが多いだけに

思うようには行かず

玉虫色のどうとでも取れるような

中途半端な策になってしまうような気もします。

 

ジョブ型にするというのは、

生易しい話ではありません。

ジョブ型と軽々しく言っている人たちには、

この日本型の採用の自由を捨てるという覚悟が

本当にあるのでしょうか。

つまり、採用判断の是非は

そのジョブに適合する人を就けるという観点でのみ

判断されるという事態を受け入れるつもりなのか、

ということです。

(P.55)

 

日本経済は成功体験を積んでしまっただけに

雇用についてもこだわりがあるでしょうね。

 

また若い方が本当にジョブ型を好むのか?

今まで通りメンバーシップ型のほうが

新規事業を起こしやすいのではないか?

そう考えると「生易しい」話しじゃありません。

 

ジョブ型社会というのは、

こういうフォーマルな教育訓練制度を

修了することで獲得された資格をもって

特定のジョブに就職する社会です。

逆にいえば、

そういう資格がないゆえに就職できないというのが、

欧米の雇用失業問題であり、

それゆえにそれに対する対策は

主として教育訓練に力を入れて就職できるような

資格を与えることになるわけです。

(P.92~93)

 

たぶんジョブ型のほうが

わかりやすさがあるとは思います。

 

でも、わかりやすいからいいというものではなく、

複雑なメンバーシップ型のほうが

優れた点もあるとは思うんです。

 

白黒ハッキリさせる問題でもないように感じます。

 

GHQがアメリカから呼んだ

労働諮問委員会は1946年の報告書で、

日本の賃金制度は

労働者のやった仕事に密接に関連しておらず、

年齢や性別とか婚姻関係といったものによって

決まるものでありおかしいと、

生活給の考え方による電産型賃金体系を批判しました。

また、世界労働組合連盟世界労連)の視察団が

翌1947年に出した報告書でも、

同様に批判しています。

しかし、日本の労働組合は断固として

生活給思想を守り抜きました。

(P.144)

 

もともとメンバーシップ型で、

給与も成果給ではなく

生活給という側面をあえて強くしてきたのですから、

ジョブ型にして成果給に変えることが

果たして吉と出るのか凶と出るのか…。

難しい問題ですね。

 

ガンバリズムの平等主義が成功を収めていた時代に、

ワーク・ライフ・バランスがなかったわけではありません。

むしろ、別の形で存在していたといえます。

すなわち、前線で戦う企業戦士たる成人男子正社員と、

その家庭を銃後で守る専業主婦

ないしパート主婦という組み合わせで、

安定的な均衡解を達成していたのです。

夫はワークに専念し、

妻はライフに専念することによって、

家庭としては見事に

ワークとライフのバランスが成り立っていたのです。

夫と妻のワークライフ分業こそが

究極のワーク・ライフ・バランスであったということです。

そういう家庭という単位に生活給を支給する企業も、

日本的ファミリーフレンドリー企業だったのかも知れません。

もちろん、企業がフレンドリーな姿勢を示すファミリーとは、

このモデルに適合する男女分業家庭に限られたわけですが。

(P.202~203)

 

長い目で見れば

これもプロセスであるということでしょうね。

 

確かにこの時代は機能はしていました。

しかし社会は多様化し

家庭の形も女性の働き方も変わったのです。

まだそれに対応しきれていないのかもしれません。

 

こうした中で女性がキャリアを確立していこうとすれば、

命じられればいつでも全国転勤が可能なように、

足手まといになる子どもなど作らないでおくことが

一番いい戦略になってしまいます。

少子化対策もここ二十年以上にわたって

政府が鉦や太鼓で大騒ぎしているわりには、

一番肝心の働き方のところでは、

子どもなど下手に作らないように誘導しているようなものです。

(P.211)

 

とても残念ではありますが、

暮らしていくために

致し方なしという面もあるのでしょうね。

 

それと政府の現場軽視というか

実態を知らずに政策を打っても

効果は限定的です。

もう何年も続いてしまってますけど。

 

会社とはそのメンバーである株主の所有物であり、

経営者とは株主の代理人として

利潤の最大化に挺身すべきものであり、

労働者とは会社の外部の第三者であって、

雇用契約によって労働を提供し報酬を受け取る

債権債務関係にあるに過ぎません。

しかし、世の中の多くの人々が、

そういう実定法の建前を全く意識せず、

労働者こそが会社のメンバーであり、

株主こそ会社にとって

外部の第三者だと思い込んでいるのは、

『企業民主化試案』のイデオロギー

全ての日本人の頭の中を支配する

ミーム(文化的遺伝子)となったからです。

(P.271)

 

本書の中で私が最もガツンと来た箇所です。

良い悪いとか、

法律論的にどうかとか、

そういう近視眼的なことだけではなく、

現実を冷静に受け止めて

で、どうする?と考える必要があるのでしょうね。

 

ポジショントークをしても意味がないので

トータルとしての働き方改革が求められそうです。

 

評価

おススメ度は ★★★★☆ といたします。

 

働く人間として

読むべき本だとは思います。

 

でも結構「難解」です。

特に法律的な話しはわかりにくい。

 

普通の人は

ざっと「流れ」を掴んで

本質だけを抑えるのがいいかもしれません。

この「流れ」は知っておくべきポイントと思いました。

 

意外と「流れ」こそが

これからの突破口になる気がします。

 

コンプライアンス重視は当然としても

「働く」環境として

それぞれの企業がどういう方針を打ち出すのか?

私自身も深く考えます。

 

あ、あと医師に関しては

すでにジョブ型雇用と言えるところも多く、

少なくとも完全なるメンバーシップ型とは言えません。

 

医師の働き方改革が進む中で

ジョブ型がさらに進むのか?

メンバーシップ型の長所を組み込むのか?

この点は現場の動きも今後チェックしてまいります。

 

それでは、また…。

 

 

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