ある読書好き医療コンサルタントの「書評」ブログ!

年間60~70冊ほど読んでます。原則毎週日曜日に更新しますが、稀にプラスαもあります。本好きの方集まれ!

ディーセント・ワーク・ガーディアン

 

おはようございます。

 

読書がライフワークになっている

医療業界のコンサルタント

ジーネット株式会社の小野勝広です。

 

働き方の多様化は

年々進んでいますが、

そのベースとなるはずの仕事観、

労働観、キャリア論、雇用環境については

あまり熟慮されていない感じがして仕方ありません。

 

何だか表層的というか

楽なほう、効率がいいほう、

日本経済全体にとって良くないほうに

突き進んでしまっているように感じるのです。

 

もっと生きがい、働きがい、やりがいなど

私たち働く側にとって

好ましい環境を作るべきではないかと思うのです。

 

キャリアシーンで20年以上も仕事をしてきて思うのは

仕事って何だ?

働くって何のため?

キャリアをどう考えればいいのだ?という

原則論とでも言いますか

そこからしっかりと土台固めをすべきじゃないかと。

 

昨今では財界側の勝手な都合や

法律論ばかりが優先されてしまい

もっと深く生活や暮らしを中心とした

地に足を付けた議論があって然るべきではないでしょうか。

 

今回ご紹介する書籍は、

【 ディーセント・ワーク・ガーディアン 】 です。

 

 

本書をピックアップした理由

『 ディーセント・ワーク・ガーディアン 』

沢村 凛 双葉社 を読みました。

 

本書の存在を知ったのは

確か産業医の先生のブログではなかったかと

記憶しています。

 

タイトルだけを見ても

正直、内容について想像はできません。

 

ディーセントワークとは

ひと言で表すなら「真っ当な仕事」とでも

言えばいいでしょうか。

 

厚生労働省のサイトでは

「働きがいのある人間らしい仕事」とまとめており、

(1)雇用の促進、

(2)社会的保護の方策の展開及び強化、

(3)社会対話の促進、

(4)労働における基本的原則及び権利の尊重、促進及び実現

 

この4つの戦略的目標を通して実現されると

位置付けられていると説明しています。

 

ガーディアンは

「守護者」「保護者」「後見人」の意味ですから

私たちの仕事を守るとか

真っ当な労働環境を守るなど

働くことを守る人ということですね。

 

少し意味を調べたら

俄然、興味が湧いてきて

すぐにポチッと購入し、

届き次第に楽しみに読み始めたのでした。

 

目次

転落の背景

妻からの電話

友の頼み事

部下の迷い

フェールセーフの穴

明日への光景

 

感想

主人公が労働基準監督官であるという

珍しい小説です。

 

最初は、ああ、そっちの話しなんだ…と

若干ガッカリしたのは事実です。

 

これは何でしょうね。

大学を卒業した後に

ずっとビジネスパーソンをしてきた私としては

経営者として会社を運営する立場としては

なぜか労働基準監督署

ある種の「敵」のようなものでしたし、

幸い今まで特別にやり取りをしたことはないですけど

やっかいな存在であるという

おかしなイメージが染みついています。

 

しかしよく考えてみれば

不正な企業、不誠実な経営者を糾弾し、

労働者を守るという存在価値は

社会的になくてはならない存在でもあります。

 

そんな労働基準監督官にフォーカスし、

ストーリー仕立てで

職場環境や労働者の日常から

私たちに考えさせるきっかけを与えてくれます。

 

産業医や弁護士、

社会保険労務士中小企業診断士

経営コンサルタントなど

労働の現場をサポートする専門家にとっては

必読の書と言えるかもしれませんし、

それどころか働く人たちは

すべからく本書を読むといいんじゃないかと思いました。

 

私自身は現在は経営者をしていますから

場合によっては厳しく問われる側であるのですが

それでも本書を読んで学ぶところは多かったです。

 

そもそも資本家と労働者という

この構図自体に疑問を感じていますし、

いつかぶっ壊したいとすら考えている私です。

 

例えば医師と患者の関係は

病気やケガに一緒に戦う同士であるはずなのに

なぜか相反する存在となりがちで

不要ないがみ合いがあるように感じます。

 

同じように資本家と労働者も

生活や暮らしや社会を良くするために

一緒に戦うべき同志であるべきなのに

なぜか相反する存在となってしまっています。

 

資本主義社会はそんなもんだと言えば

それで話しは終わってしまうのですが、

そろそろこれを見直すべきではないでしょうか。

 

どっかの総理が新しい資本主義とか言ってましたけど

できるわけがありません。

 

主義というのは現場で生まれ、

現場で広がっていくものと思ってます。

 

私自身は小さな会社の経営者ですけど

それこそ資本主義と戦うつもりで

新しい「働く」を一緒になって作り上げたいと

強く願い、行動を起こしているつもりです。

 

冒頭申し上げましたように

仕事って何だ?

働くって何のため?

キャリアをどう考えればいいのだ?

こういう原則論が現代社会では不足しており、

学校を卒業したから働かなきゃいけないという

まるで進級と同じような感覚で

働き始める人が多いのではないでしょうか。

 

もちろん私自身もその1人でしたが、

それでは本当の意味での「土台」にはなりません。

 

本書に書かれていた

この1カ所だけ…

とても感じ入るところがありましたので

少し長いのですけど引用させていただきます。

 

人生は、仕事を中心に成り立っている。

人は、仕事により、

生活のための収入を得る。

そのうえ仕事は、

生き甲斐やアイデンティティも与えてくれる。

仕事には、苦労もあるが、

だからこそ、達成感が味わえる。

仕事とは、

他人に何らかの価値提供をすることだから、

誰かの役に立っているという

喜びがそこにはある。

人は仕事により成長し、

仕事に拘束されたあとだから、

余暇時間や引退生活では自由を満喫できるのだ。

三村の目は、

ベビーカーを押しながら

歩道をゆく女性をとらえた。

専業主婦だろうか。

金銭的な報酬のあるなしを基準にしなければ、

家事もまた仕事だ。

志を同じくする誰かに扶養されながら、

ボランティアの仕事をしている人もいるだろう。

そんな人たちの働きもあって、

世の中は回っている。

仕事は世界を回している。

ただしそれは、仕事が本来の姿(ディーセント)である場合だ。

現実には、

達成感につながらない無用な苦労ばかり

強いられる職場がある。

健康を損ない、精神が疲弊し、

命さえ落とすような職場があり、

人の役に立つどころか、

罪悪感を覚えてしまうような仕事がある。

そんな仕事にさえつけない人たちがいて、

そんな働き方を経験したり目にしたりして、

働くことを忌避するようになった人たちがいる。

それらは仕事のあってはならない姿だ。

適切な仕事(ディーセント)が人生を成り立たせ、

豊かにし、世界を回しているとしたら、

そうした仕事は人間を損ない、

社会に不幸をばらまいて、

その機能を蝕んでいく。

仕事はすべての土台だから。

仕事がディーセントであっても、

それだけで幸福は保障されない。

災害や災難は、人や時を選ばずにやってくる。

私生活の悩みも、

いつどんなふうに起こるかわからない。

たとえば妻が突然、

お腹に他人の子供を宿していると告白してくるとか。

それでも、土台があれば、

きっと人生は立て直せる。

(P.362~363)

 

そうじゃないという

ロジックも組み立てられるでしょうし、

エクスキューズはいくらでもあるでしょう。

 

しかし仕事というのは

働くというは、

「超」が付くほどのリアルな現実なのですよね。

 

屁理屈をこねて

現実から逃げてはいけないと思うのです。

 

社会や時代の変化は早くなる一方で

「キャリア」という概念を持たないと

いつの間にか仕事を失ってしまったり、

職場を失うことも少なくないわけじゃないですか。

 

是非とも本書を多くの人に読んでいただき

自分らしい働くとはどんなか?

自分らしい仕事とは何だ?

自分らしいキャリアのために何をすべきか?

 

こんなことを考えるトリガーになればいいなと思います。

 

また逆の立場に立った場合、

つまり資本家、経営者側ですが、

もう大概にしなければならないでしょう。

 

偉くなったと勘違いし、

権力の使い方を間違えて

社会悪になっているケースは多いですよね。

 

これからの時代は

よほど襟を正していかないと

逮捕される経営者は増えるばかりと思います。

 

働くのは労働者で

資本家や経営者は働かせるのが仕事だと

こんなふうに考えているならば

大きな罰が当たるような気がします。

 

理由は簡単です。

ディーセントではないから。

 

資本家や経営者と

労働者を相反する存在として位置付けては

大きな勘違いを生み出すのではないでしょうか。

 

ディーセントとは何か?

これは関わるステークホルダー全体で

熟慮して、編み出すものだと私は考えています。

 

そして最大派閥である労働者をないがしろにして

ディーセントな環境や制度が作られるとは思えません。

 

もちろん労働者のなかには

不埒な輩も存在するのは確かです。

 

そういう人は別としても

真面目で、モチベーションが高く、

世のため人のために働こうとしている人は

日本人は特に多いと思われ、

それを打ち砕いている経営陣は

万死に値すると言ってもいいのではないでしょうか。

完全な社会悪ですからね。

 

重ね重ね申し上げますが

私たちは、仕事とは?

働くとは?キャリアとは?と

深く大原則を追求したほうがいいと思います。

 

それが人生の土台固めになりますし、

生き甲斐、働き甲斐、やり甲斐に繋がりますから。

 

評価

おススメ度は ★★★★★ と満点といたします。

 

ディーセントワーク。

2024年度は益々求められるでしょうか。

いえ、求めなければならないでしょう。

 

我が国はすでに先進国から

すべり落ちそうな危機的な状況であり、

このまま没落するのを避けるのであれば

労使一体となった改革が必要なはずです。

 

大きなことは私には言えませんが

まずは自社内での改革を進めてまいります。

 

それでは、また…。

 

 

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