おはようございます。
読書がライフワークになっている
医療業界のコンサルタント
ジーネット株式会社の小野勝広です。
段々と春めいてきましたね~。
私は4月生まれということもあるのか、
なぜか春になるとモチベーションが上がるのです。
日常的な生活面も、
仕事も、学びも、
何だかやる気スイッチが自然と入るんですね。
普通は「読書の秋」と言いますけど
私は「読書の春」って感じで
春になると本を読みたい欲求が
もう1段階グッと上がるのです。
今回ご紹介する書籍は、
【 我が医療革命論 】 です。
本書をピックアップした理由
『 我が医療革命論』
少し前に下記のブログを書きました。
率直に申し上げて
非常に勉強になりましたし、
純粋に面白かったです。
この本の中に
第8章 医療のグランドデザインへー坪井栄孝会長時代(1996~2004)
という章がありまして、
非常に興味深く読みました。
有名な武見太郎先生の時代から変わり、
厚労省におもねる時代が続き、
その後に坪井会長時代、
まるで明治維新のような
時代が大きく変わるターニングポイントだったかもしれません。
医師会総合研究所というシンクタンクを作り、
新時代の幕開けのきっかけとなった坪井栄孝会長。
この方に私は関心を持ち、
本書にたどり着いたのです。
かなり気合いを入れて
読み始めたのでした。
目次
序 二一世紀の医療を求めて
第1章 私の社会保障改革の原点
第2章 日本の社会保障の明暗
第3章 医療のグランドデザイン
第4章 日本医師会への批判に答える
第5章 医療の現場と行政
感想
いやいや実に面白い。
本書は2001年8月に発行されています。
すでに20年前なのですね。
ところが古さを全く感じない。
登場人物がひと昔前の方々だというのは
時の流れのなかで仕方のないことですが、
内容は全く古くありません。
しかしこれは本書の素晴らしさというよりは、
いかに我が国の医療制度改革が
遅々として進んでいないかの証明なんですよね。
著者は日本医師会の会長として、
魂からの叫びを本書に著しています。
その根幹は、
「国民のための医療」です。
とても骨のある方で、
反官僚、反厚生労働省を貫き通し、
正々堂々と
国民の前で我々医師会と政策論争せよ!
密室で決めるのではなく、
我々医師会のように国民に選択肢を提示せよ!
と述べています。
よく言った会長!
当時はそんな風に受け止められたのでしょうか?
当時の風潮がわかりませんので、
何とも言えないのですが、
著者の主張には正直共感しました。
最近の総務省幹部の違法接待疑惑を持ち出すまでもなく、
官僚こそが国を壊し続けていると言っても
過言ではないここ数年のなかで、
あまりにも無責任すぎますし、
あまりにも有害すぎます。
日本医師会のすべてが正しいとは言えませんし、
医師会にも課題は多々あるとは思いますが、
少なくとも官僚と比較すれば余程マシでしょう。
20年前ですら
こんな状況だったのに
20年後の今も全く構造は変わらずに
むしろ悪化していると言える状況が続いているのですから
官僚制度自体を大幅に見直さないと
国が持たない気がします。
さっさとAIを導入、活用して、
官僚から権力を引きはがさないと
国破れて省庁あり…というような
愚の骨頂のような事になるんじゃないかと心配です。
著者のような大権力に正々堂々と戦いを挑める
社会的リーダーの出現が待たれますね。
医療費を含む社会保障全体の問題などに関する
著者の主張も充分に頷けるものでした。
それではここで恒例の私がグッときた箇所をご紹介します。
著者の魂からの叫びをご覧下さい。
社会保障構造の改革は、是非必要です。
しかも、今の時期のように、
国全体がまさに聖域なく改革を実行しようとする機運の中では、
絶好のチャンスであると私は思っています。
とくに、医療は継ぎはぎだらけのパッチワークみたいで
制度疲労を起こしています。
ますます加速されるであろう少子高齢化社会には、
とても効率が悪く無駄の多い制度になっています。
だから、小泉総理の決断は
国民あげて支持すべき大義名分があります。
しかし、非常に残念なことに、
その具体的な方法論は、
素人の狭い視野での発案であり、
前々から官僚がやりたくてしようがなかった
医療費の抑制案のみで、
二十一世紀の日本の医療は、
かくあるべきという哲学がない軽薄なものなのです。
医者が儲けすぎるとか、
医者だけがいい思いをしているとか、
妄想に近いような感情論で、
とにかく医療費を抑えようとする
亡国の徒の都の発想が主体を占めているのです。
(P.2~3)
日本医師会が平成九(1997)年に
医療構造改革構想を国に先駆けて出したのは、
こうした危機感が背景にあります。
まったく展望も見えない日本の社会保障の在り方、
医療の在り方について、
医療の現場を預かる我々が積極的な発言をしないと、
状況は変わらないと考えたからです。
当事者間の利害だけを調整し、
なんのビジョンもなく、
医療費を削減することだけを考えている、
厚生労働省的な官主導の考えでは、
必ず日本の社会保障は行き詰まると考えています。
そのためには、
私たちも自分たちの利害にこだわる発想をやめて、
日本の医療サービスをどう発展させるのか、
世界に誇れる皆保険制度を維持しながら、
新しい社会保障をどう再構築しなければならないか、
その議論を進める積極的な立場に
医師会は立たなくてはならないと考えています。
(P.19)
社会保障というものは、
国家の財政とか国家の経済に対して、
動けば動くほど損をもたらすものではなく、
また動けば動くほど国民が負担をこうむるというものではなくて、
動けば動いただけのマーケットを作って、
そのマーケットの中から新たな需要が生み出されます。
それによって国のGDPがボトムアップされるという
投資としての側面も持つのです。
この視点も欠いたままで、
社会保障の概念を従来通りとして変えない限りは、
これからも同じことを繰り返すと思います。
社会保障は消費ではなく、
投資であるという社会保障概念の改革を
早く実現すべきなのです。
(P.40)
日本の医療費を国が完全にコントロールしているからといって、
医学の進歩に合わないような
医療を提供し続けることはできませんから、
医療機関が我慢して安い費用で
高度の医療を提供しているということになります。
これは国の医療費節約のためにいいことなのかもしれませんが、
医師には不満が蓄積します。
(P.96)
旧厚生省の具体的なグランドデザインといえば、
「お医者さんたちが自制してください、
お医者さんたちが我慢してください」ということです。
要するに、健康保険の総点数を下げるということです。
医師たちの健康保険の点数を下げることで
すべてが解決するということになるなら、
それを行政側が強制的に決めて、
医師たちは今まで一点十円だったけれども、
一点に関して八円きりしかあげられません
ということを法律で決めれば、
二十%の削減を強制的にできるわけです。
(中略)
もしそうなったら多くの病院は消滅します。
そして、医療の供給が減ります。
それから、医師のなり手がなくなる。
もう一つは悪い競争が増えるでしょう。
(P.107~108)
そういうことをやりくりしなければ
病院が成り立たない状況、
また我々が考えている患者さんに対する
筋の通ったサービスができない状況というのは
おかしいのではないでしょうか。
官僚の権力意識が強すぎて、
現場を知らないものが制度を作るからそうなるのです。
それで、これではだめだというので出しているものが
医療のグランドデザインです。
(P.196~197)
国家全体のバランスの中で
医療費のあり方を論じてもらわないと
国民は不幸になります。
命に値段はつけられない、
進歩した最高の医療技術は享受したいという
国民の希求と国民の財源上の限界とのバランスは
国民が選択すべきです。
国家権力が、官僚が、学者が
国民に選択肢を示しもしないで
法制化しようというのは、官僚ファッショです。
絶対に私は反対します。
(P.241)
商道を知らぬ商人は国営をなさないように、
医道を解せぬ医師は国を救えないと思っています。
医道にも士魂が必要であり、
医道の士魂は人類愛(ヒューマニティー)です。
(P.261~262)
評価
おススメ度は ★★★★★ と満点といたします。
著者の熱き思いに感化されて
私もそうだ!と拳を振り上げたくなりました。
繰り返しになりますが、
本書は20年も前に書かれたものなのです。
新型コロナに対する対応などを見ても、
ワクチンの購入から分配、接種の準備を見ていても
正直、厚生労働省が機能しているとは思えず
行政の危機管理能力には疑問を感じますし、
むしろ民間に任せたほうがいいようにも思います。
医療は国家の礎であり、
医師は国家の宝です。
国民の健康があってこその産業であり、
経済活動なわけですから
医療費を悪者にするのは筋違いです。
厚労省にグランドデザインがないから
結論ありきで医療費を減らす、
密室で決められ、
ごくごく一部の人たちの合意だけで法制化する。
ずっとこんな事を続けてきて、
その結果が「今」なんですよね。
このままでいいわけがありません。
医療現場に負担を押し付けるのではなく、
まずは厚労省こそが
内部を改革する必要があるのでしょうね。
省内のなかで若手主導の改革を期待したいところですが、
むしろ若手で辞める人が増えているのですから
さすがに期待はできません。
政治家が鉄槌を下さないと
政治、行政が国を亡ぼすのかもしれないな。
そんなことを考えてしまいました。
それでは、また…。
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